姉は、一言で言えば不器用な人だった。
不器用、いや違う。ああいう人をなんていうんだろう。
性悪説を地でいく人。
善意を素直に受け取らず、必ずありもしない裏を読んで勝手に傷ついてしまう被害妄想じみた人。
それに加えて、負けず嫌いなのに変に上の方に目を向けて、自分に一切の才能が無いと勘違いをしてしまう人。
身の周りだけで考えていれば十分に才能を持っているのに、自分は何も持ってないと落ちこんでしまう人。
姉はそんな風に不器用な人で、だからこそ非常に息苦しい学校生活を送っていたのだと思う。
誰も信用することが出来ず、何も出来ない自分を悔やみながら、深海魚のようにひっそりと、日の明かりの満ちる眩しい教室の中で息を潜めていたに違いない。
実際には見たことが無くても、教室の隅で本を捲りながら、視界の端を通り過ぎるクラスメイトを見ないようにする姉の姿が目に浮かぶ。
サミシクナイヨ。
ツラクナイヨ。
ワタシハヒトリデダイジョウブダカラ。
姉は誰に言うでもなく自分自身に、そんなことを言い重ねていたのではないだろうか。
それでも姉は一生懸命に精一杯自分の義務を果たして生きようとしていた。
それなのに、姉が不登校になってしまったのは、それなりの事情ときっかけがあったのだ。
姉が不登校になった理由、それはよくある無視でもいじめでもなく、『喪失』だった。
まず間違いない事実として、姉は決して『出来ない』人ではなかった。
勉強も運動も、美術も家庭科も、人付き合いに至るまで平均的に出来る人だった。
だから、誰からも責められることはなく、だから誰からも褒められることもなかった。
そんな中で姉がぶつかった問題は、事故のようなものだったのだ。
誰にでも起こりうることで、誰もが乗り越えていけるような、問題にもならないような問題だった。
けれど、それが姉の身に降りかかったのは、不幸としか言いようが無かった。