魚喃 アト

なあ、知ってっか?
世間じゃ薬物乱用問題が、
深刻な状況になってるそうだぜ。

来栖 禅

……ええ。
覚せい剤事犯で検挙された
青少年の数は、
高水準で推移しており、
憂慮すべき事態におかれていますね。

魚喃 アト

マッシュルームに覚醒剤、
それから危険ドラッグ……な。

来栖 禅

痩せる、元気になれる、
楽しい気分になれる…….

少年少女の悩みや好奇心を利用して、
薬物を売りつける売人は
許されざる存在です。

魚喃 アト

でもよぉ、こんなに危ない危ない
言われてんのに、
混ぜ物の粗悪品ドラッグに
手を出すヤツの気が知れねーよな?

来栖 禅

それはまぁ、
脳内麻薬物質を自在に出せる
天然ドラッガーのアトには、
理解できない問題でしょうね。
少年少女というのは、私達の想像以上に
複雑かつ生き辛い環境に
おかれているのですから。

魚喃 アト

ふーん、なるほどね……って、
お前……サラッと
オレの悪口言わなかった?

来栖 禅

いえいえ、褒め言葉ですよ。
そんなことより、
そろそろ本日の謎と参りましょう!

魚喃 アト

タイトルは
『取り扱い注意』なんだが……。
オレのことも、
ちったあ取り扱いに注意しろっつーの!
このタコ助がっ!


第十七夜『取り扱い注意』

俺の名はスチュアート・グリッソム。
ニューヨーク市警察(NYPD)麻薬課の刑事だ。
今日は麻薬の密売人を一斉検挙するために、
ここ、ジョン・F・ケネディー空港を訪れている。


『グリッソム、
 そろそろDL948便が到着するわよ。』

相棒のレイカ・T・ロアンズに
声をかけられ気を引き締める。


メキシコシティ発、
ニューヨーク着の飛行機の乗員は76人。
その中に麻薬の密売人が紛れ込んでいる。


俺はホルスターからグロック17を抜き取ると、
入念に状態や弾倉を確認し、
緊急時の対処方法について考えを巡らせた。
すると、空港内に発着アナウンスが響き、
DL948便の乗客が到着ロビーに姿を現した。


『見て、グリッソム!
 麻薬探知犬が子連れの客に反応してるわ。』

『潜入捜査官の情報は正しかったようだな。』

レイカにうなずき返し、
検査を受ける乗客の列に目を向ける。
そこには、乳児を抱えた母親が3人、
幼児の手を引く5人の母親の姿があった。


『あー、そこのご婦人。
 ちょっと、手荷物を調べさせてもらっても?』

『ちょっと、いったい何なの!?
 うちの子……飛行機酔いしたみたいだから、
 早く空港を出たいんだけど。』

『すぐに、すみます。
 どうか、ご協力ください。』

『赤ちゃんは、こちらで
 お預かりいたしますわ。』

レイカと共に若い母親に近寄り、
笑顔で話しかける。
慎重な対応が必要だ。
ブツが出なけりゃ、ただのご婦人。
ビンゴが揃うその時まで、
善良な市民として扱うことが求められる。


俺はレイカに目で合図を送りながら、
若い母親の手荷物に手を伸ばした。
と――その時、レイカの表情が強張った。

『この子、顔色がおかしいわ……。
 それに……体がかたくて冷たい。』

『どうした?』

若い母親を正面にとらえたまま、
視界の端で赤ん坊を見る。
確かに、顔色が悪い。
いや、悪いどころじゃない。
モルグで眠る死体といい勝負だ。


『グリッソム……ドクターを! 急いで!』

レイカの叫び声を受け、
他の捜査員達がざわつく。
瞬間――。


『ぎぎぎぎぎぃっ……』

母親に手を引かれていた
5人の幼児が痙攣を起こし、
口から泡を零し始めた。


『おいおい!
 こいつは、いったいぜんたい
 どうしちまったんだ!』

『バイオテロだ! ヤバイぞ!』

数人の乗客が叫び、
恐怖がパンデミックを引き起こす。


『くそっ! このままじゃ、
 売人に逃げられちまう!』

『この状態で、何を言ってるの!
 早く市警に応援を!』

冷静な判断を失ったレイカが
乗客の避難誘導を開始する。
そんな中、俺は取り残されたままの5人の幼児と、
床に転がる3人の乳児を呆然と眺めていた。


来栖 禅

最近では、学校で薬物乱用防止教育が
行われているそうですね。

魚喃 アト

それだけ、ヤバイ薬が
身近になってるってことか……。

来栖 禅

身近にありすぎて、
常から出ているのも、
少々問題ですよね……。

魚喃 アト

なんで、オレの頭を見てるワケ?

第十七夜「取り扱い注意」

facebook twitter
pagetop