特別編・8(全4回)
 
 

アレス

今回のお話の主人公:アレス
場所:グラドニア城
時期:第90幕の半年後

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
魔王ノーサスとの戦いが終わってから
半年が経過した。


僕は相変わらずグラドニア公国に滞在して、
クリスくんとともに
色々な国の偉い人たちと会ったり
食事会をしたりといった日々が続いている。

ただ、最近はそれもだいぶ落ち着いて、
何も予定の入らない日も出てきた。



ちなみにミューリエは
クレアさんやデリンと一緒に
魔界を改革しようと頑張ってるみたい。

レインさんも先月から手助けに行っていて
今はお城を開けている。


そういえば森で出会ったトーヤくんだけど、
今、お城で薬草師をしているって
手紙に書いてあったなぁ。

また会いたいなぁ……。



ビセットさんとエレノアさんは
それぞれ故郷に戻って元の仕事を再開。
タックはこちらの世界や魔界の各地を旅して
様子を探っているらしい。


ミリーさんは剣の腕をさらに磨くため、
修行の旅に出た。
今ごろ、どの辺にいるんだろう。



そしてシーラはこのグラドニア城で
メイドさん見習いとして働いている。
何もせずにお城に滞在するのは悪いからと
自分から申し出たんだよね。

最初こそ悪戦苦闘していたけど、
飲み込みが早くて頑張り屋さんだから
すぐに仕事を完璧に覚えた。


今ではその真面目な仕事っぷりは
お城のみんなにも評判だ。



ちなみに僕のことは気にせず、
故郷に戻ってもいいよって
シーラには言ったんだけど、
最後まで僕のお供をしたいんだって。


そう言ってもらえるのは嬉しいけど
最近は少し寂しそうにしているようにも
見えるんだよなぁ。

やっぱりウェンディさんに
会いたいんじゃないのかなぁって思う。
 
 

シーラ

アレス様、クリス様。
昼食の準備が整いました。
晩餐室へお越しください。

クリス

シーラ殿、お疲れ様。

アレス

たまにはシーラも一緒に
食事をしようよ。
最近はそういう機会が
なかったんだしさ。

シーラ

でも……まだ別の仕事が
残っていますので……。

 
 
シーラは申し訳なさそうに言った。

本当に責任感が強いなぁ。
でもそういうところが彼女らしい。


すると僕たちの横にいた
リカルドさんがクスッと笑う。
 
 

リカルド

構いませんよ、シーラ様。
それは私どもでやっておきます。
シーラ様は陛下やアレス様と
食事をなさってください。

アレス

そうしようよ、シーラ。

シーラ

は、はい。

 
 
心なしかシーラは嬉しそう。

やっぱり本当は僕たちと一緒に
食事をしたかったんじゃないのかな。


普段が真面目すぎるから、
少しは自分にワガママになってもいいと思う。
さすがにレインさんみたいに
自由奔放すぎるのは困るけどね……。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
食事が終わり、
僕たちは午後の予定が始まるまで
ゆっくりと過ごしていた。

そして会話も落ち着いてきたところで
僕は以前から考えていたことを
クリスくんに打ち明けることにする。
 
 

アレス

クリスくん、
ちょっと相談があるんだけど。

クリス

どうなさった、アレス様?

アレス

ほんの少しだけ、
グラドニアを離れてもいいかな?
最近は会いに来る人の数も
落ち着いてきたし。

アレス

トンモロ村やシーラの故郷に
行きたいなぁって。

シーラ

アレス様っ!?

アレス

シーラもウェンディさんに
会いたいでしょ?

シーラ

そ、それは……。

アレス

僕が言い出さないと
シーラは絶対に行きたいって
言わないもんね?

シーラ

う……。

 
 
照れくさそうに頬を赤くしているシーラ。
やっぱりウェンディさんに
会いたかったんだね。


でも僕の話を聞いたクリスくんは
眉を曇らせて『んー』と小さく唸る。
 
 

クリス

最終的には
アレス様のご意思を尊重するが、
もう少しだけいてほしいというのが
正直なところだ。

クリス

トンモロ村との往復となると、
数か月は空白の期間が
できてしまうからなぁ。

 
 
確かにトンモロ村は
隣の大陸だから海を越えなきゃいけない。

でももちろん僕にだって考えがある。
 
 

アレス

クリスくんって
転移魔法を使えるんだよね?
あれで移動ってできない?

クリス

転移魔法なら瞬時に移動ができる。
ただ、残念ながらボクは
トンモロ村へ行ったことがない。
あちらの大陸も然りだ。

クリス

転移魔法で移動できるのは、
自分が行ったことのある場所だけ。
力になれずすまない。

アレス

そっかぁ、それは残念。
こんな時、
レインさんがいてくれたらなぁ。

 
 
レインさんならトンモロ村の近くにも
行ったことがあるもんね。

初めて出会ったのがその辺りだったから。
 
 

クリス

おぉ、そういえばレイン殿だが
さっき一時的に
戻ってきたという報告があった。
呼んだ方がよろしいか?

アレス

ホント? ぜひ呼んでよ。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
その後、食事を終えた僕たちは王室へ移動し、
レインさんがそこへ呼び出された。

久しぶりに会うけど顔色もいいし、
元気そうで良かった。
 
 

レイン

やっほ~、アレス!
勇者様から直々のお呼び出し、
光栄でこざいまーすっ!

アレス

レインさんは相変わらずですね。
でも元気そうで安心しました。

レイン

アレスやクリスは
疲れているように見えるわね。
あんまり無理しちゃダメよ?

クリス

分かっている。

レイン

で、何か用なの?
デートのお誘い?

アレス

はい、その通りですっ!

 
 
いつものようにレインさんが冗談を言って
からかってくるので
僕もたまには冗談で返してみた。

するとレインさんやクリスくんは
目を丸くして狼狽えている。
 
 

レイン

っ!? ちょ、ちょっと待って!
じょ、冗談でしょ?

アレス

嫌なんですか?

レイン

そ、そんなワケないじゃない。
で、でもいきなりだから
ビックリしたわよ……。

アレス

ちょっとした冗談です。
あ、でも半分くらいは
本気ってことになるのかな?

レイン

どういうこと?

 
 
僕は今までの経緯を説明した。

するとレインさんは事情を理解してくれて、
やれやれと大きく息をつく。
 
 

レイン

な、なんだそういうことね。
なんだかホッとした気持ちと、
少し残念な気持ちが半々ね。

アレス

そういうわけなので、
転移魔法をお願いできますか?

レイン

ダメじゃないけど、
私は得意というわけでもないのよ。
ご承知のように一度に1人しか
転移されられないし。

レイン

でも少し時間をくれれば
適任者を連れてこられると思う。
そうね、数日くらい。それでどう?

アレス

分かりました。では、待ちます。

レイン

承知。じゃ、そういう方向で
調整するわ。

 
 
こうして僕はレインさんと約束を交わした。
これでシーラを第2の試練の洞窟へ
連れていってあげることができる。


でも適任者って誰のことなんだろう?
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

特別編・8-1 平和な日々が続いて

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