絶体絶命のピンチ……。
でもそんな私の横を誰かが通り過ぎていく。
すれ違う一瞬、
その人は私の方へ視線だけをチラリと向け、
優しく微笑んだような気がした。
絶体絶命のピンチ……。
でもそんな私の横を誰かが通り過ぎていく。
すれ違う一瞬、
その人は私の方へ視線だけをチラリと向け、
優しく微笑んだような気がした。
魔族どもめ……。
――それはウェンディさんだった。
きっとこっそり私のあとを追って、
様子を見守っていてくれたんだと思う。
それで私のピンチを目の当たりにして、
身代わりになろうと……。
う……うぅ……。
ウェンディさん……。
あら? 人間……じゃないわね?
この気配は竜人族。
平界にいるのは珍しいわね。
ほとんどは魔界の片隅で
ひっそりと暮らしてるのに。
私は勇者アレク様の命で
この地に留まっている者。
この洞窟の管理者でもあるんだよ。
なるほど、そういうことね。
でも抗う力なんてないじゃない。
先の短い老いぼれが
死に場所を求めてきたわけ?
ふふ、そうかもしれないね。
最後に一花咲かせようと思ってね。
……目障り。消えなさい。
シャイン様は空間の狭間から
自分の身長ほどもある巨大な鎌を取り出し、
電光石火でウェンディさんに襲いかかった。
そして……ウェンディさんは……
悲鳴を上げる間もなく瞬時に八つ裂きに……。
こんな……こんな別れ方……嫌だよ……。
ふふ、他愛もない……。
魔法で消した方が
良かったんじゃないっスか?
汚い血で鎌が錆びるっスよっ♪
う……うぐ……。
うううううぅ……っ!!
私は手で口を押さえ、声を殺して泣いた。
ここで感情に任せて
泣き声を上げるわけにはいかない。
だってウェンディさんが命を張って
庇ってくれた想いを無にしてしまうから……。
仕方ないわね。
エル、結界を破るのに
協力しなさい。
承知です。
具体的には何をすれば
よろしいので?
あなた、生け贄になって
私たちの魔力増幅を手伝いなさい。
なっ!? それは……どういう?
そのままの意味ですよ。
クロイス様は何かのスペルを唱えた。
するとエルくんの足下には
魔方陣が浮かび上がる。
そして赤い光がエルくんを包み込んでいく。
ぐ……が……身動きが……。
私のために死ねるのよ?
使い魔冥利に尽きるでしょ?
ありがたく思いなさい。
こんなの……
シャイン……様……。
あ……あぁああああぁ……。
エルくんは断末魔の叫びを上げながら
光の中に消えた。
その直後、
シャイン様とクロイス様の魔法力が
数倍に膨れあがる。
そして再び結界破りの魔法を使い、
ようやくご主人様を封じていた結界が
跡形もなく消滅した。
ご主人様が自由になったのは嬉しいけど、
エルくんは……。
好きになれない人だったけど、
それでも私の知り合いだもん。
目の前で消されたら悲しくないわけない……。
デリン、
手間をかけさせたんだから
しっかり働きなさいよ?
……分かっている。
では、勇者たちを
待ち受けるとしましょう。
たっぷりと罠を仕掛けた上で。
ご主人様たちは転移魔法を使い、
その場から消えた。
フロアは沈黙が包み込み、
その中に私だけが佇んでいる。
ウェンディさん……。
ご主人様……。エルくん……。
私の心の中には虚しさと寂しさが
いつまでも漂っている。
なんでこんな悲劇ばかりが起きるのだろう?
争いなんか、
この世からなくなればいいのに……。
私はウェンディさんを丁重に葬り、
この地を離れた。
まだ行き先は決めていないけど、
どこか魔界の外れで静かに暮らそうと思う。
ご主人様が迎えに来てくれる日を信じて……。
特別編・7
1.ドジっ娘!? 使い魔サララ
2.邪念なき魔族
3.健気さは正義っ!
4.結界破りの画策
5.エルの家へ
6.交渉決裂!
7.古代魔法炸裂!?
8.魔王様の命令
9.激怒するデリン
10.死亡フラグ
11.突然のさよなら……
終わり