人は時にわからなくなる

螺旋を
 登っているのか?
  それとも降りているのか?

 デジャブ

それは
誰にでもある記憶の断片

 繋ぎあわせ
  はりあわせたとしても

正解へとたどり着くとはかぎらない
遺伝子のパズル……


………暗い……暗いわ……暗いの……

記憶のはじまり、それは闇だった。
それでも、それは冷たい闇でなく、暖かい闇だった。

きゃーっ、ま、眩しい!

やがて、まばゆい閃光とともに苦しみがはじまった。

い、息が……息ができない!!!!

誰が教えたのか……遺伝子のプログラムなのか……『呼吸』を思い出すと、なんとか彼女は『生きる』ことを始めるようになった。

ワタシ……この景色……覚えてる……

いつでもそうだった。
彼女は……自分が見るもの、聞くこと、どれもどこかでいつか見た……かつて聞いた……そんな気がしていた。
いいや、それでは正確ではない。
経験した後になって、これは前に経験したことがある。と思うのだ。

はじめて立ち上がり、はじめて歩きだし、はじめて声を発したこと
はじめての友達、はじめての喧嘩、はじめての恋、はじめての別れ……

彼女は、すべてはじめてのはずの人生が、なぜか虚しく感じていた。
そして彼女は自分の人生を変えようと思った。
自分の人生を生きたい……ただ……それだけだった。

彼女の試み……それは、ある岐路に立った時、『自分だったら決して選択しないであろう選択を行う』というものだった。

……時は過ぎ、少女は成長していた……

ショーコ

ケイってばバカよねえーまたユウトに騙されたんだって?


夜、街外れのコンビニエンスストア前の駐車場にふたつの影があった。

ケイ

へへへ、別にイーじゃん


彼女の名前はケイ……どちらかといえば、本来、大人しい性格だった……

ショーコ

なに笑ってんのよ!騙されたって言ってんのよ?アンタ……ユウトに貸したお金なんて返ってこないわよ?投資だっけ?あんなのウソウソ

ケイ

ふふふ、ショーコちゃん、いいのよ。そんなこと。ユウくんに騙されたとしても、それは『はじめて』のことだもん

ショーコ

はあ?あんた根っからのバカね。ユウトの前の彼氏、健吾だっけ?あと剛志?その前は……ええと……純也か……みーーーーんな騙されてるじゃないの!

ケイ

いーのいーの!みんなみんな『はじめて』の経験なんだから


少女……ケイ……は、『はじめての経験』に飢えていた。それが良きにせよ悪しきにせよ『はじめての経験』をすることが、すなわち『生きていること』と思っていた。

ショーコ

ケイ……そんなのダメよ。もう、ケイは都合のいい女ってみんな思ってるんだよ?いーの?それでいいわけ?ダメでしょ?『はじめて』なんて気にしてたら、どんどんエスカレートしちゃうんじゃない?今度の、竜也だっけ?アイツ……絶対アブナイわよ

ケイ

んーーーーそう?リュウくん?優しいけどねえー

ショーコ

ったく、ほんとにアンタ男を見る目がないんだから!


実際のところ、ケイは本能的には竜也にピリピリとした感覚を感じていた。しかし、それはこれまでに経験したことのない感覚であり、ともすると本当の『恋』のように、自分を変える嵐のように感じていたのだった。

ブロロロロロー

黒塗りのワンボックスカーが二人の前に停まった。

竜也

ケイーわりーわりー、待った?

ケイ

リュウくんー待ってないよー

ショーコ

ちっ 30分以上待ってるじゃん

竜也

ん?
ええと……
キミは……たしか友達のショーコちゃんだっけ?
居たの?

ショーコ

居たわよ居たし!1時間前からね!

竜也

あ……そ

ショーコ

ほら!ケイ、こんなヤツよ?行こう行こう!

ケイ

えーっ、いやよショーコちゃん、これからドライブ行くんだし。はじめての!

ショーコ

…………

竜也

ショーコも行く?


竜也はそう言って車のスライドドアを開けた。
紫色のネオン装飾が輝いて見える。

ショーコ

ちっ い、行きたくないけど……行くわよ。ケイが心配だし

ケイ

ショーコちゃんありがとう!友達ね!


二人を乗せた自動車は街外れに向かって走りだした……

あらかじめ用意された闇

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