は
研ぎ澄まされ
 キミの
   魂の
まんまなかに

突き刺さる

それは、ギリギリまで膨らんだ月が今にもはちきれんばかりに輝いていた満月の夜のことだった

はぁー はぁー はぁー

冷たい大気が薄く引き伸ばされ、大地に低く這っている。日中の暑さがまるで嘘のように、冷えた山道をひとりの男が走ってゆく影が月明かりに見える。

やめろ!やめてくれ!
わ、
ああああぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁーーーーーーーーー……………

---ドスンッ---

という音がすると、また静寂が夜を包んだ。

人類がこの惑星に産み落とされる遥か前からそこにあって、永遠さえ思わせる星たちが居心地良さそうにまたたく。

すると、谷底を見下ろす目玉がふたつ光った。

グルルルルルゥゥゥウゥウ

やめないかジュドゥ
ソレは醜い
そんなもの喰らえばオマエが汚れてしまうよ

闇の中から生まれた獣の唸りを少年の声が制した。
抑揚のない澄んだ声だ。

そして音がすると一瞬闇が輝いた

ああ、美しい夜だ。
この夜を汚す者をボクは許さないだろう。
ただ、それだけのことだ……

足音はまた音もなく、深い森の奥へと消えていった。

親愛なる傍観者諸君、つまりはそう、キミらのために
時を少し巻き戻そう…………

その夜、数刻前、少年はいつものように街を見下ろす高台にいた。
街明かりをつまらなそうに見つめたまま少年は腰を下ろした。

醜い明かりだ。あの明かりひとつひとつを摘まんで消してやろうか……

少年は手のひらを伸ばし、街の灯をひとつ、摘まむようなマネをした。
つぎの瞬間、少年がその手を払うと、不思議なことにその街の灯は姿を消していた。

フッ 我ながら情けない
こんなことをしてなんの意味があるというのか……
さあ、仕方がない……ゆくか……
いずれにせよ、なんの意味もない行為ではあるけれど
なにもしないでいる
というわけにもいかないのサ

少年は立ち上がり
街へと歩きだした
するとしばらくして

……けて……たす……けて……くださ……い………

どこからともなく、すすり泣くような声が聞こえた。

おや?キミ、ボクのことが見えるのかい?

少年は道端に横たわるソレを無表情に見下ろした。

おね……がい……たすけ……て……

いや、見えてなどいないか……

心なしかすこし残念そうに声に背を向け、少年はまた歩き出そうとした。

どうかゼル……たすけ……て……

今度という今度は目を見開き、少年はソレを凝視した。

グルルルルルゥウウウ……

それに応じるかのように、背後にはべる獣も喉を鳴らす。

問題だ……問題だぞ。オマエ、なぜその名を知っている?

少年は闇に手をのばし、その声の主を掴むと、闇から引きずりだした

オマエ、ナニモノだ!

……たすけ……て……

なぜだ?なぜ答えない?


少年の問いかけも虚しく、『声』はまるで壊れたラジオのようにそれを繰り返すだけだった。

………………け……て………


やがてだんだんと『声』は力を失っていった。

ダメだ……ダメだ、ダメだ、ダメだ!
謎だと?こ、これはよくない。まるでよくない。
このままでは永遠になってしまう。
この胸に生まれたシコリは永遠にとどまり、すべてを飲み込む塊になってしまう。
どうする?……いやダメだ……しかし……時間が……ない
時間…………
そうか……そうだな……
いいだろう、いいだろう、なあにたいしたことではない


少年はしばし、ひとり自問をつづけるとソレへと『手』を伸ばした。

さあ
汝、神の子に非ず、人の子に非ず、闇に生まれし痘痕よ
醜く惨めで、か弱き存在、陳腐な魂よ
我はその命に逆らい、汝に『時』を与えん
『命』の求めるまま、その生をまっとうせよ!


闇の中から光が生まれた
そして光がソレを包み込むと
ソレは静かに立ち上がった

さあ語るがいい
オマエの犯した罪を
醜い生の欲望の果てを

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