魚喃 アト

すべての本は、束の間の本と
生涯の本の2種類に分けられる。

これは、英国の美術評論家
ジョン・ラスキンの言葉だ。

魚喃 アト

本に限らず、オレたちの周囲に存在する
すべてのモノが「束の間」のモノと
「生涯」のモノに
分けられると思わねぇか?

魚喃 アト

そう例えば……この『意味怖』もだ。

忘れた頃に思い出すような、
もしくは……誰かに話したくなるような
この世に二つとない極上の『謎』を
出し続けっから解き続けろよ?
そう「一生涯」な……。

来栖 禅

ほお、あなたにしては
珍しく真面目な口上ですね……アト。

魚喃 アト

うおっ! 禅……っ!
いつの間にそこに!
いるなら言えよな、このタコ助が!

来栖 禅

ふふふっ。
では、今回も短篇の謎と参りましょう。


第十二夜「深夜残業」

深夜残業を終えた俺は、
廊下を急ぎ足で歩いていた。

真夜中のオフィス、薄暗い廊下が苦手だ。
俺は自分の足音にすらビビリながら、
ひと気のないエントランスを目指した。

瞬間、通りに面した大きな窓に
青ざめた顔の女がひとり……、
薄っすらと、映り込んでいることに気づいた!
『で、出た! ひぃっ!』
派手に転んで、窓を指差す。
だが――。


『は? ワスレナグサか……。』
窓に映っていたのは、
受付窓口の机に置かれていた、
ただの鉢植えだった。


『幽霊の正体見たり、枯れ尾花だな……はははっ。』
俺は一部始終を見ていた受付嬢達に愛想笑いを送り、
そそくさと会社を後にした。


来栖 禅

ちなみにですが、
アトは残業したことありますか?

魚喃 アト

オレの仕事が何か分かってて、
その質問してんのか?

来栖 禅

ああ、アトの仕事は……人間の処……。

魚喃 アト

……殺すぞ。

来栖 禅

残業が発生しそうですね……。

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