すべての本は、束の間の本と
生涯の本の2種類に分けられる。
これは、英国の美術評論家
ジョン・ラスキンの言葉だ。
本に限らず、オレたちの周囲に存在する
すべてのモノが「束の間」のモノと
「生涯」のモノに
分けられると思わねぇか?
そう例えば……この『意味怖』もだ。
忘れた頃に思い出すような、
もしくは……誰かに話したくなるような
この世に二つとない極上の『謎』を
出し続けっから解き続けろよ?
そう「一生涯」な……。
ほお、あなたにしては
珍しく真面目な口上ですね……アト。
うおっ! 禅……っ!
いつの間にそこに!
いるなら言えよな、このタコ助が!
ふふふっ。
では、今回も短篇の謎と参りましょう。
第十二夜「深夜残業」
深夜残業を終えた俺は、
廊下を急ぎ足で歩いていた。
真夜中のオフィス、薄暗い廊下が苦手だ。
俺は自分の足音にすらビビリながら、
ひと気のないエントランスを目指した。
瞬間、通りに面した大きな窓に
青ざめた顔の女がひとり……、
薄っすらと、映り込んでいることに気づいた!
『で、出た! ひぃっ!』
派手に転んで、窓を指差す。
だが――。
『は? ワスレナグサか……。』
窓に映っていたのは、
受付窓口の机に置かれていた、
ただの鉢植えだった。
『幽霊の正体見たり、枯れ尾花だな……はははっ。』
俺は一部始終を見ていた受付嬢達に愛想笑いを送り、
そそくさと会社を後にした。
ちなみにですが、
アトは残業したことありますか?
オレの仕事が何か分かってて、
その質問してんのか?
ああ、アトの仕事は……人間の処……。
……殺すぞ。
残業が発生しそうですね……。
深夜に受付嬢がいるはずない…
つまり…
ってことですかね?