戸惑うようなお姉さんの顔を見て、わたしは、ようやく冷静になった。
そして、自分がなにを言ったかを、ちゃんと理解してしまう。
……あの
はい?
年下の男の子に……興味は、あるんですか
……えっ?
戸惑うようなお姉さんの顔を見て、わたしは、ようやく冷静になった。
そして、自分がなにを言ったかを、ちゃんと理解してしまう。
……っ!
顔を下げて、唇を強く締めてしまう。
顔が、赤くなるのがわかった。
初めて、お姉さんと会った時と同じ、顔を合わせられない感覚。
いったい、わたしは、なにを言っているのだろう。
……聞くべきなら、もっと、良い言葉があったはずなのに。
顔が見えなくなっても、お姉さんがそこにいるのはわかった。
なかなか答えが返ってこなくて、それに違う話題も出てこないのは、困っているからなんだろうか。
……どう応えればいいのか、困る質問ではありますね
少しだけ、困ったように笑いながら、お姉さんはそう言った。
わたしは、頭を上げる。
ずっと頭を下げているのも失礼だから、ちゃんと、眼を見て謝る。
そう、ですよね……ごめんなさい
わたしの言葉を聞いて、お姉さんの口元の笑みが、薄くなった。
それから、唇に指をよせて、考え込むように視線をそらす。
色づきのよい唇に、細くきれいな指先が触れる。
その姿が、いつもよりもっと、大人に見えてどきっとした。
……気になりますか
その仕草のまま、眼だけをわたしの瞳に合わせられる。
なぜか、誘われているような、変な気分にさせられる。
そんなこと、ありえないのに。
でも、心臓がどきっとなるのが、はっきりとわかった。
(気になる、けど……なにが、気になる?)
驚きすぎて、わたしの眼と頭のなかは、お姉さんの顔しか見えていなかった。
そこには、しっかりとこっちの眼を見る、二つの瞳がある。
いつも、本をすすめてくれたり、話を楽しそうにする時とは、違う輝き。
黒くて、考え深い、惹きこまれるような……深い輝きが、わたしを見ている。
(……今、気になるのは、どっち?)
自分に問いかけて、でも、答えは知っている。
二度、驚いたからだろうか。
わたしの顔からは、もう赤みも引いて、考えもすっきりとしたものになっていた。
だから、さっきは変だと想っていた質問も、今ならちゃんと言える。
はい、すみません。
どうしても、聞かせてほしいんです……彼のこと、どう想っているのか
嘘のない、答えの欲しい、お願いを口にする。
……それは、今にして想えば、最初から持っていた疑問と不安。
お姉さんに、本当はずっと聞きたかった、言葉だったのかもしれない。
(いろいろ、お話しできるのは……楽しかったけれど)
もう、ここで見てはいない、二人の時間。
見なくても、お姉さんと話せれば楽しい……そう自分をごまかして、二人の時間を見るのを、避けていたのかもしれない。
想像でも、現実でも。
そんな考えも、頭に浮かぶけれど。
自分の本当が、わからない部分も、あるけれど。
(お姉さんの、彼への想いを……答えて、もらえるんだろうか)
……もし、答えられたら、どうすればいいんだろう。
――興味、ありますよ。
そう、答えられでもしてしまったら。
テレビや新聞でも、歳の差カップルの報道がよくされている。
お姉さんと私達が、どれだけ離れているのか、知らないと今気づいたのだけれど。
(わたしより、ずっと、あいつのことを理解しているんだよね……?)
それが何歳差であろうとも、その事実は変わらない。
お姉さんが口を開くまでの時間、わたしもいろいろなことを想像してしまっていた。
もし、こうなってしまったら、のような想像のことだけれど。
その間も、お姉さんは、じっと立っていた。
いつもよりも、なにか言いたげで、口元を揺れ動かしながら。
大人っぽい……あぁ、そう、憂いを帯びた顔って、こんな顔を言うんだろうか。
……私ね
しっとり、まるで梅雨の時期を感じさせる息づかいで、お姉さんは言った。
――今度、結婚するんです。