多くの人が行きかう朝のホーム
ぼんやりしながら美子は電車の列に並んだ。
多くの人が行きかう朝のホーム
ぼんやりしながら美子は電車の列に並んだ。
本当、朝から嫌な夢みちゃった…。
今日一日どんな気分で過ごせと…。
手で顔を覆い
フーっとため息をつく。
すると、突然
美子ちん!おはよー!!
わあぁぁぁ!!びっ、びっくりしたーー!!
香奈~、いきなりおどかさないでよ!!
あははははははは。ごめん、ごめん。
美子、ボーっとしてるんだもん。
ついいじわるしたくなって!
ポンっと香奈は美子の肩に手をのせ
横の列に並んだ。
石上香奈は美子の親友だ。
香奈は、非常に明るく、容姿に似合わず声がでかい。
裏表がなくまっすぐ素直な性格で
女子特有のドロドロさがないところが美子は好きだ。
白い肌が映え漆黒のサラサラとしたセミロングで
男子から非常に人気が高いが、
本人はサラサラ恋愛に興味がない。
そういえばさぁ…
香奈が何か言いかけたところで
電車がホームに入ってきた。
気付けば後ろには多くの人がぎっしりと並んでいる。
電車のドアが開くと
あっという間に乗り降りする人でホームはごったがえした。
二人は、あわてて電車に乗り込む。
今日もなかなかの込み具合だ。
二人は運よく座席につくと
すぐに波のように人が
流れ込んできて目の前に人の壁ができた。
美子は、スカートをただし
ひざに鞄をのせた。
香奈、さっきなんか言いかけたよね?
右に座った香奈に話かけると
彼女の後ろのドアから光が差し
香奈の髪が輝いていた。
香奈はゆっくりとニヤけて
あのさ、美子さ。
藤沢くんとつきあってるの?
ええええぇぇぇぇ!!!!!!
美子の声が車内にひびいた。
びっくりした人々が香奈と美子に注目する。
目の前のサラリーマンと目が合い
顔を少しひそめたので、顔を真っ赤に染めながら美子は頭を下げた。
もお!ちょっと突然なにいってんのよ!
そんなことあるわけないでしょ!
美子は、香奈に顔を近づけ周りに迷惑がかからぬよう
小声で怒った。
ひゃあぁ、ごめんごめん。
昨日の放課後、同じ部活の子から美子と藤沢くんが二人っきりで話してるところ見てそんな話になったからさ。聞いてみた。
香奈なりに、周りに配慮して話しているようだが
声のボリュームは、普通の人が普通に話すくらいの大きさだった。
もお~、昨夜LINEしたときに聞いてくれたらいいじゃない…。
私の反応をみて楽しんでるよね?
良い性格してるよ~…本当、嫌いじゃないけど。
美子は、車内の天井を仰いだ。
月(つき)。
藤沢月とは同じクラスだ。
彼は、言葉数は少なく特定のだれかとはつるんでいない。
だが、彼が発するオーラのせいか男女問わず人気がある。男子でさえ、月に話しかけるときは顔を少し赤く染め緊張しているようだ。
美子にとって月は特別な存在だ。
恋愛的な意味ではなく
心を許せる存在。
家族以外で美子の秘密を知っているのは彼だけだ。
彼なら安心できる。
悩みもわかってくれる。
なぜなら、彼も美子と同じ側の者だからだ。
はっ!と気付くとニヤニヤと香奈が顔をのぞきでいる。
美子は、顔を真っ赤にし手を横に振った。
藤沢くんとは何にもないよ!
たまたま帰りが一緒になって話しただけだよ!!
何かあったら香奈には必ず言うもの。
そっか、そうだよね~。美子は、なんでも話してくれるもんね!
でもさ、たまーに美子、藤沢くんのことみてるから私も気になっちゃって。
えぇ~、そっかな?勘違いだよ!あははははは…。
美子は、恥ずかしさと気まずさで鞄から
スマホを取り出し、適当に操作した。
月と一緒にいるところを見られていたとは…。
昨日、月に笑われたことを思い出す。
スクロールする画面の内容が一切頭に入ってこない。
後で、月と会うことを考えると、気が重たくなった。
というか、
自分は、そういうことサラサラ興味ないのに
他人の恋愛事情には興味津々なのね。
香奈の方をちらっと見る。
香奈もスマホをいじっている。
なかなか皆、人のこと見ているもんなんだなあ。
天井を仰ぎみる。
今度から気をつけないと…。
昨日みられたのが月といるところでよかった。
もしも万が一、耳や尻尾が出ているところだったら…。
美子は、青ざめて小さく息をのんだ。
ん?私、そんなに月のこと見てたっけ??
全然記憶にない。
ちらっと横目でもう一度、香奈を見てみると
いつの間にか、香奈は眠っている。
美子は、ほっと胸をなでおろすと、
あと1つで下車する駅に着くことに気付いた。