警察の取り調べ結果により、ステファンの思いとは裏腹にあの女性が殺人鬼であることが判明した。

 あの女性の死因は病死だ。女性が病気になったのは
ここ一年間だ。

 そう簡単に治らない病気と知り、女性は心を蝕まれていった。

 どうせ自分が死ぬなら、他の人間も道連れに。

 死後、彼女の自宅から発見されたノートに書かれていた。それはあまりにも身勝手な理由だった。

 今回、ミシェルの屋敷に戻って来たのは、病気を抑える薬を屋敷で落としてしまった為。それを取りに戻ったのだと警察は予測している。実際、ミシェルの屋敷からは、それらしき薬が残されていた。

 これにより、事件はその残酷さと裏腹に、静かに終わりを告げた。

そんなの……みんなが報われないよ……

ですが、これが真実なのです

 ミシェルは悲し気な顔つきをしたものの、やがて微笑んでナキを見る。その後ステファンを見ると、両手を膝に当てて頭を下げた。

ステファン、疑ってごめんなさい

いえ。坊ちゃんに悪いと思って、真相を言わなかった私も罪深いのです

 ミシェルが謝ると、ステファンは初めてその硬い表情を和らげた。

ところで坊ちゃん、此方のお方は?

ああ、彼女は、ナキお姉さんって言ってね

 しんみりした雰囲気から、急に話題を自分に変えられ、ナキは戸惑う。ずっと重たい雰囲気をまとうよりは良いのかもしれないが、急に二人の端正な男の人から注目されるのは少々恥ずかしい。

 ナキがそう思っているともつゆ知らず、ミシェルは無邪気な笑顔で言った。

僕の大好きな人だよ!

 バンッ! 手が真っ赤になった。

 大好きってどう言う意味? 友人? キャラクター? それとも……。ナキは手招く動作で狼狽えた。

そうですか。良かったですね

 ステファンは察したように微笑む。

 いやいやとナキは手を振った。たった一本の手が大好きなのが、何故そんな瞬時に理解に至るのか。ステファンの心理は全く以て読めない。

 その後もミシェルはナキとの出会いを説明し、真っ黒な空は、徐々に色を青く変えていった。
――続

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