ミシェルとステファン、ナキが話し合う一軒家に、一つのチャイムが鳴り響いた。

はぁーい

 ミシェルが扉を開けると、そこに立っていたのはナキの父親だ。一礼する父親に、ミシェルも会釈してどうぞとリビングに手を伸ばす。

 二人が移動すると、ステファンが深々とお辞儀をした。父親は一度驚いたものの、すぐにお辞儀をして返す。

 何時ものようにリビングテーブルに座ると、父親は話を切り出した。

ミシェル君、以前の話の答えを聞かせてもらってもいいかな

 そう言えば。父親がそんなことを言っていたのだとナキは思い出す。ミシェルは真剣な眼差しで父親に頷いている。折角仲良くなったのに、離れ離れなのか。ナキはミシェルから掌を逸らした。

……ごめんなさい。僕、この家を離れたくないんです

……え?

 逸らした掌を、ゆっくりとミシェルへと戻す。ミシェルは真っ直ぐ父親の目を見つめたまま話す。

僕、この家も、そして彼女も大好きなんです。だから、僕は此処を離れたく無いんです

……それで本当に良いのかい?

 父親も真剣な眼差しでミシェルに問う。ミシェルは頷いて答えた。

……そうか。それじゃあ、此処は君に任せるよ

有難う!

 ミシェルはナキやステファンと喜び合った。彼らの喜ぶ姿に、父親も嬉しそうに微笑んだ。

 それから、一軒家に子供一人のみが越して来たことを不安がっていた近所の人々も、ステファンが新たにやって来たことから、見る目を多少変えるようになった。

 ステファンは、あの屋敷に住んでいる際は、自身やミシェルの両親のことを思い出すがゆえに、表情が強張っていたのだそう。

 場所を変えたステファンは、以前よりも柔らかい表情をすることが増え、近所の女性の間でチヤホヤされるまでになった。

 今日も近所の女性からの余り物の料理を頂いて自宅に戻ると、ステファンは何時もと違う二人……否、一つの手の様子に驚く。

 大きな鏡の目の前に映っているはずの一つの手が、可愛らしい黒髪の少女になっているのだ。

 何がどうしてこうなったのかは分からなかったが、二人の嬉しそうに微笑む姿を見つめていたら、ステファンも思わず笑顔になっていた。

坊ちゃん、お嬢様。ご近所の方からのプレゼントですよ

 ステファンの声がかかると、二人は嬉しそうに振り返った。

――完

pagetop