坊ちゃん、お怪我はありませんか

 ステファンは、ミシェルを抱きかかえながら、絨毯から生える異様な手を見つめる。

 ナキは、絨毯から生やしていた手を移動し、ステファンの足元へ移動すると、ステファンの足首を掴み、足を抄おうとした。だが、掴まれた瞬間にステファンはしゃがみ、その無機質な瞳をナキの手に近づけた。その瞳を見た瞬間、ナキは一瞬たじろいだが、足首を握りしめる力が一層強くなる。

……化け物が!

 ステファンは服の裏地のポケットからナイフを取り出し、ナキへと向けた。

 それに気づいたミシェルが、ステファンの腕を噛んだ。

っ!!

 ステファンがひるんだ隙に、ミシェルはナキの手を引いて距離を取り、その場から逃げ出した。

坊ちゃん!

 ステファンはナイフを手に持ったまま、ミシェルとナキを追って走り出す。

 ナキはその手を廊下の壁へと移動させると、ミシェルはその手を掴んで家の中を走り抜ける。

 階段を下り、リビングへ向かうと、一旦リビングの隣の部屋の押入れで息を潜めた。

 リビングには、荒々しいステファンの息遣いのみが聞こえてくる。このまま外へ逃げ出すのも手としてあるのだが、先程のステファンの様子を見る辺り、ナキも敵とみなしているようだった。ナキを一人にするのは怖い。こうなれば、ステファンの武器を取り上げるしかない。呼吸を整え、そのタイミングを待ち構えた。

 リビングテーブルの下、キッチンの裏、棚の中。そして、ステファンはリビングの隣のこの部屋へとやってくる。

坊ちゃん!!

 リビングの扉を開け、隣の部屋に来たステファン。徐々にその足を押入れの方へと向け、とうとう目の前へとしゃがみ込んだ。

 その時――。

 ガッとナキの手が伸び、ステファンの足を狙った。

 ステファンが慌ててナイフをナキに向けた瞬間、押入れの扉が開いた。

お姉さん、避けて!

 ナキが手を地面に潜り込んで消した直後、ミシェルが押入れから飛び出し、ステファンの右手にあったナイフを掴んで投げ飛ばす。

クッ!!

 ステファンは思いもよらぬミシェルの抵抗に驚き、ゆらゆらと数歩後退した。投げたナイフはナキの手に収まり、立場は逆転した。

――続

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