それからも、時折父親がこの家に来るようになった。その度にナキと父親は楽しそうに話し込んでおり、それをミシェルは温かく見守っていた。
そんなある日の深夜。何時ものように、玄関の方からドンドンと扉を叩く音がした。
それからも、時折父親がこの家に来るようになった。その度にナキと父親は楽しそうに話し込んでおり、それをミシェルは温かく見守っていた。
そんなある日の深夜。何時ものように、玄関の方からドンドンと扉を叩く音がした。
はぁーい
ミシェルが懐中電灯を持って駆け寄って内カギを開錠しようとしたその時のこと。
――ガチャガチャガチャッ。
いつもと、扉の向こうの様子が違った。
まさか。ミシェルは台を扉の前へ持っていき、台に乗ってドアスコープを覗いた。
その人間が視界に入った瞬間、心臓が激しく鼓動した。
坊ちゃん
信じたくは無い目の前の人物の姿に動揺し、懐中電灯を落としてしまった。カチャンと落下の音がしたその瞬間、音を聞いたステファンがドアノブを動かし、扉を叩いた。
坊ちゃん、坊ちゃん
……
ミシェルは固まって動けなくなる。その間にも、扉を叩く音は止まらない。
そんなミシェルの足首に、一つの手が忍び寄る。
!!
足元を見ると、ナキがミシェルの足を引っ張っていた。状況を見て、異常事態だと察したらしい。一旦足首から手を放すと、二階へと指を差す。
う、うん。そうだね……!
ミシェルはなるべく音を立てぬよう注意を払いながら、階段を登って行った。
二人がやってきたのは、ナキの部屋だった。部屋は全て生前に彼女が住んでいたままの状態になっており、ピンクを基調とした部屋の色合いや、可愛らしいクマのぬいぐるみなどで、ナキの女性らしさが伝わってくる。勿論、大きな本棚の中には、縦横に積み上げられた本がある。
ミシェルはナキの勉強机の下で、体を小さく丸めて座る。
ナキお姉さん有難う。もう死ぬんだと思ったよ
そんなこと簡単に言うんじゃないの! ナキは机下の壁から手を出し、ミシェルの背中を叩いた。ナキに背を叩かれると、ミシェルは申し訳なさそうに、「ごめんごめん」と笑った。
お姉さんの部屋、可愛いね。このクマ年季入ってる~
何だかんだで、利用していた部屋はナキの父の部屋と一階が多かったミシェル。ナキの部屋をゆっくりと見るのは初めてだった。
机下から手を伸ばし、ベッドの上に置いてある大きなクマのぬいぐるみを持ち上げる。ナキは恥ずかしそうに手を開いては閉じるを繰り返していたが、決してぬいぐるみに手荒な真似はしない。愛着があるようだ。
徐々に音が小さくなっていた頃には、ミシェルは立ち上がってナキの部屋の中を見ていた。本の多くはミステリーだ。その他に僅かにあるのは、恋愛、ホラー、ファンタジー。絵本も二冊置いてある。
ミシェルは絵本の一冊を手に取ると、何の気なしに読み始める。タイトルは、”二匹の子羊”だ。
絵本の内容は、そのタイトルの通り二匹の子羊がメインになる。
一匹は、真っ白な心を持った小さな子羊。人の笑顔が大好きだ。
そしてもう一匹は、よどんだ心を持った、赤黒い子羊。その毛色は、何かで染め上げたらしいのだが……。
うわぁっ!!
ミシェルは叫び声をあげた。ナキが即座に掌を上へ向けると、ミシェルの細い首に腕を絡み付けた、ステファンがいた。
――続