あの日……
夏休みもあと一週間ほどになった残暑の暑い日……
5人は裏山の青池に行こうと集まった。
青池とは、乾季になると枯れてしまうほどの小さな池で、日によってはなぜか濃いブルーに染まるという不思議な池だった。
そしてそれは決まって夏の終わり、この時期に起こるという。
その噂話をシウが聞きつけて、みなに声をかけたのだった。
あの日……
夏休みもあと一週間ほどになった残暑の暑い日……
5人は裏山の青池に行こうと集まった。
青池とは、乾季になると枯れてしまうほどの小さな池で、日によってはなぜか濃いブルーに染まるという不思議な池だった。
そしてそれは決まって夏の終わり、この時期に起こるという。
その噂話をシウが聞きつけて、みなに声をかけたのだった。
よし、全員揃ったな!さあ行くか!
ちょ、ちょっとツヨシくん、待ってよ
先頭を歩き出すツヨシにナナミが駆け寄った。
お、ナナっち、麦わら帽子?めずらしいなあ。似合って……いや、なんでもない
ナナミは丸くて可愛らしいリボンのついた麦わら帽子をかぶっていた。
な、なによ!
そ、それより……
ねえーキモダメシとかやめよーよー、小学生じゃあるまいし
なんだナナっち怖いん?
こ、こ、怖くなんかないけどぉ~
ねえ?ミヨちゃん
うん!別に怖くはない
ただ、蚊がイヤなだけ
でしょ?でしょ?そーいうことを言ってるわけよ!分かった?デリカシーのカケラもない男子諸君!
シュッ シュッ
これ、使えよ
え?虫除けスプレー?
あ、ありがとうシウくん
よし!これで問題ないな!
さあー行くぞー!レッツゴー!
いやいや、ツヨシくん……
そーいう問題じゃなく……
ツヨシはどこからか拾った小枝を持って、雑草を払いながら意気揚々と先頭を進んだ。
ったく、ツヨシってばガキね!ガキ!
ズバリ、お子ちゃま!
まーまー、そう言うなよナナ
誘ったのはボクなんだからさ
え?
シウくんが?
キモダメシ誘ったの?
え?キモダメシ?
そんな話ししてないけど……
ちょっとツヨシ!どーいうこと?
え?だってアキラが怪奇現象を見に行こうって言うからさ。怪奇現象っつったらお化けだろ?
ん?
ワタシ、そんなこと言いましたっけ?
不思議現象って言いませんでしたか?
話がシウからアキラ、アキラからツヨシ、ツヨシから女子に伝わる間になぜかキモダメシに行く、ということになっていたのだった。
…………ま、まあ、とにかく行くぞ!
ズズ ズザッ ババババッ
途中、道が木立に覆われ、木々を押し分け、道なき道を進んでいった。
ねえ、ツヨシくん。この道、あってんの?
ん?あ、ああ。たぶん……
たぶん?たぶんってなによ!
なんか木が鬱蒼としてきてるんだけど!
ちなみに薄暗くなってきたし!
も、もしかして迷ったとか?
ば、バカ言え!おいシウ!どうなんだ?道、あってるよな?
え?ボク?知らないよ。
ツヨシが『青池?それなら俺が知ってる!任せとけ!』って言ったんじゃないか?
そ、それは……まあ、言ったような、言ってないような……
言ったよ
言いましたね、たしかに。『俺に任せりゃチョチョイのチョイで到着だぜ!』とか
なんだよアキラ!お前も敵か?
いや、敵とか味方とかじゃなくてですね。そもそも随分前に通った分かれ道が間違ってたような……
そーいうことは、もっと早く言えよ!
いや、ツヨシくん、とても楽しそうだったもので……言い出せませんでした
なっ
や、どうやら着いたみたいだよ
シウが指差す方を見ると、まだ微かに残された木漏れ日に揺れる、青い水面が見えた。
わあー綺麗!
ほんとに青いんだ
なんでだろ
ええと……それはですねえ、水は赤や黄色の光を吸収するので、残された青が強調されて……
ドンッ
あ、痛いっ 何をするんですかー
アキラ、そんなスマホで検索とかしてないで直で見ろよ
あ、ああ……そうですねえ……
確かに……美しい……
5人が一様にその景色に目を、心を奪われている最中、風が一迅、巻き起こり悪戯をした。
キャッ あーっ 帽子が!
風がナナの麦わら帽子をヒョイッとつまみ上げると、池の真ん中へと運んでいった。
ヒラヒラと舞う麦わら帽子はやがて静かに、着水する。
ポチャッ
……あああ……ど、どうしよう
どうしようたってナナっち……アリャあ無理だろ
う……うん……で、でも……
ボクが行くよ
へ?シウ、泳ぐ気か?溺れるゾ?
いやいや、さすがにそれはしないさ。ほら、あそこ……船がある
シウが指差す方を見ると、なるほど古びた小舟があった。
しかし、このときツヨシは、なにか違和感を感じた。
それでも、それはとても小さな違和感だったので口にするのはやめた。
ツヨシにしてみれば、麦わら帽子くらい諦めればいいのに、と思っていたが、ナナの様子を見ればそれがとても大切なモノだろうことは予想ができた。
それだからか、少し無謀にさえ見えるシウの提案を皆止めること無く静かに見守っていた。
シウは丁寧に小舟を調べ、浸水がないことを確認するとゆっくりと船に乗り漕ぎだした。
ダ、ダメだ!シウ!やめろーーーーーーーーーっ
バタんッ
ツヨシは目を覚ますとやっと我に返った。
見回せば、そこは保健室だった。
保健室のベッドでいつの間にか寝てしまったのか。
全身びしょ濡れのままだった。
ゆ、夢か……
いや、いやいやいや、シウ……
チキショウ!
この先は……どうなったんだ?
お、思い出せない
窓の外を見れば、もう、日は傾き、オレンジの太陽が影を引き伸ばしていた。