ツヨシ

い、行こうぜ

ナナ

で、でもぉ……

ツヨシ

仕方がないだろ?な?

アキラ

そうですね
内緒にしておきましょう
ワタシたち5人の……

ミヨ

う、うん……

夏休みも終わり頃、住宅街の外れ、あまり高くはない山の麓にある林の中で声がする。
子供の頃からの仲が良かった5人グループの中から、四人がいま一目散に駆けていく。

アキラ

いいですか?家に帰ったら、このことはスッカリ忘れてしまうんです。
この夏、ここには誰も来ていない。
いいですね?


アキラが言うと、みな黙ったまま頷いた。
そしてその日から、夏休みが終わるまで四人が会うことはなかった。

夏休みが終わり、二学期が始まる。

ツヨシ

なあ、おい、おかしいと思わないか?


ツヨシが切り出した。

ミヨ

ん?なにが?


ミヨは明るい笑顔で返した。

ツヨシ

なにがって……シウのことだよ

アキラ

シウ???

アキラが不思議そうにツヨシを見返した。

ツヨシ

お、おい!ふざけんなよ!なんでニュースにならないんだ?っての!

ツヨシの声を授業のチャイムが遮った。

五人は同じクラスだった。

ツヨシが廊下側の前の方の席。ミヨはそのすぐ隣り。ナナはちょうど真ん中くらいの席。アキラは窓側の一番後ろ……

ホームルームが始まり、生徒たちは着席している。ツヨシが先生の目を盗んでそれぞれの表情を見回した。

……そして……シウが廊下側の一番後ろ……

ツヨシが無理な姿勢で背後を見ようと振り返ると

ツヨシ

わぁっ!


思わず大きな声をあげ、椅子から転がり落ちてしまった。

近藤くん!なにか?

そして先生に怒られてしまった。

ツヨシ

い、いえ……な、なんでもありません


ツヨシはよろめきながら席についた。後ろをチラチラとふりかえりながら。

ツヨシ

おかしい、おかしいぞ。なんだアレは。アレは誰なんだ


ツヨシは下を向きながら言葉を噛み潰していた。
そして隣のミヨに後ろを指さして見ろ見ろとジェスチャーした。
ミヨは不思議そうに首を傾けた後、思い切り後ろを振り返った。

ミヨ

ぬ?

ツヨシ

あ、バカ!


とツヨシが言おうとしたが、ミヨは気にせずそのまま後ろを見た後、また不思議そうな顔でツヨシを見返した。

ミヨ

で?

ツヨシ

お、おい!なんで普通にしてられる?あれは誰だ?シウの席にいるアレは

と、小声で言ったが、この時また先生に見つかり、静かにするように言われたので、この後は黙っているしか無くなった。

……………………

時が音もなく過ぎていく。
しかし、ツヨシにとっては一時限目の授業が一日分くらいの速さでゆっくりと、重く過ぎていった。

バッ

授業が終わるとツヨシは勢い良く立ち上がり後ろの席へ向かおうとした。
しかし、同様に席をたったクラスメイト達に邪魔されて思うように後ろに進めない。
ツヨシが一番後ろの席にたどり着いた時には多くの生徒は廊下へ出てしまった後だった。

アキラ

ツヨシ君、どうしました?

突然背後からアキラに肩を叩かれ、

ツヨシ

ヒィッ


ツヨシは飛び上がった。

アキラ

あらあら、どうしたんです?
そんなお化けでも見るような顔して。
朝からちょっとおかしいですよ?ツヨシ君

ツヨシ

お……おかしいのはオマエらのほうだろ!


見れば回りにはミヨもナナも集まってきていた。
そのメンバーに向かってツヨシは声を荒らげている。

ツヨシ

こ、ここの席に座ってるヤツ、アイツはなんだ!おい!誰だってんだよ


アキラも、ミヨもナナもツヨシの言うことを呆気にとられたように見ている。アキラのいうことが分からない。とでもいうように。

アキラ

誰って言ってもなあ……ははは

アキラがミヨを見る。

ミヨ

ねえ~

ミヨがナナを見る。

ナナ

シウ君でしょ?


最後にナナがツヨシを見て言った。

ツヨシ

いやいやいやいやいやいや、そ、そ、そんなハズはないだろ!そーだろ?だって、だって、そーだろ?な?な?あんとき!


ツヨシが取り乱したように叫ぶとちょうど先生が通りかかった。

アキラ

あ、先生!
ツヨシ、気分が悪いみたいなんで、保健室連れて行ってもイイですかねえ?


アキラが先生に言ったが

ツヨシ

おい!アキラ!俺は気分なんて悪くない!ただ、ただ……

んー、そうね。たしかにこの汗は……熱かしら?いいわよ、連れて行ってあげなさい

先生もアキラを見て言うように、ツヨシの額からは明らかに異常に見えるほど汗が吹き出し、全身が濡れているほどだった。
そうした自分の姿に気がつくとツヨシも渋々同意して保健室へと向かった。アキラに付き添われて。

先生の姿が見えなくなるまではおとなしく付き添いをしていたアキラだったが、2階から一階への階段の途中でふと立ち止まった。

ツヨシ

ん?どうしたアキラ


アキラの表情の変化にツヨシも気がついた。
さっきまでどちらかといえばニコニコしていたアキラが突然冷たい表情に変わったのだ。

アキラ

どうしたじゃないですよ!
ツヨシ君、キミは約束を忘れたのですか?

アキラは、アキラにしては強い口調でツヨシに投げかけた。

ツヨシ

約束……あ、ああ。
わ、忘れてなんてない。だ、だけどアレは……シウは……あのシウはなんだってんだよ

アキラ

そんなことはどーでもいいんですよ!
約束は約束!シウのことには触れない!話題にしない!近づかない!そうでしょ?そうでしたよね?
ね?

ツヨシ

あ、ああ……そうだ……でも……

アキラ

でももなにもないんです!
約束は守る!それがキミを…………
ワタシたちを守るんです!
いいですか?絶対、絶対に忘れないでください!

ツヨシ

あ、ああ……わ、悪かった。悪かったよ


ツヨシはもちろん納得なんてしていなかった。
それもそうだろう……あの日、あの時、五人で行った森の中で……シウは確かに死んだはずなのだから……

pagetop