残された二つのお揃いのマグカップ。私のピンクの歯ブラシの隣にある、先が丸くなっている青い歯ブラシ。タツキの匂いのするシーツ。


 この部屋にいると、まるでタツキがまだここにいるのではないかと私に実感させてくる。



 タツキが明日いなくなってしまうなんて、夢にも思っていなかった。きっと、それはこの部屋も同じだ。


 タツキの好きなプリンは、食べてもらえる人が帰ってこなくてずっと冷蔵庫の中に眠っているし、タツキが育てていたお花もどこか元気なく萎れている。





 この部屋は、タツキとの思い出であふれている。辛いほどに。


ミユ

探さなきゃ





 そう思うけれど、心の半分は探したくないと言っていた。




 だって、タツキの手紙通りなら、これが最後の手紙だ。

 タツキから私への、正真正銘の最後の言葉だ。



 見つけてしまったら、タツキがいなくなってしまうような気がした。タツキが、消えてしまうような気がした。





 ……でも、会いたい。どうしようもなく、タツキに会いたい。



 自分たちの辿って来た道を、思い出を振り返りながら手紙を探してきて、本当だったらタツキとあんなことがあったね、とか、こんなことが楽しかったね、とか話しながら手紙を見つけているはずだった。




 掘り起こされた思い出は、二人で語るはずのものだったのに。私だけのためのものではないのに。それを語れる唯一の人は、何処へいってしまったのだろう。






ミユ

探さなきゃ



 ゆらりとベッドから立ち上がり、タツキが隠しそうな場所を探す。



 今まで通りであれば、タツキの言葉と私たちの思い出にヒントがあるはず。




 タツキの、“笑顔が好き”という伝言には何か意味があるはずだ。


ミユ

もしかして



 洗面所に向かって、鏡の棚を開ける。そこには、いつも通り私のストレートアイロンと、タツキの電動髭剃り、そして化粧水などの美容用品が入っていて、手紙は見当たらなかった。




 がっかりしながらパタンと扉を閉じると、そこには私の顔が写されている。げっそりとしていて、顔色が悪い。目元のクマと肌荒れも。




 笑顔なんて、どう作るかこの数日間で忘れてしまった。


 ここじゃないなら、とまたリビングへ。

ミユ

どこだろう


 部屋の中を見回す。本棚には教育関係の本がぎっしりと詰められていて、クローゼットには私の洋服と、タツキの洋服がぎっしりといつもと同じように詰まっている。

 チェストの上には、今までに私とタツキが撮った写真がいくつか並べられている。

ミユ

あ……


 目についたのは、一つの写真立て。去年旅行に行ったときに撮った写真で、私とタツキの笑顔がいっぱいに写っているものだ。

 その写真立てを手に取ると、手に紙の感触が。後ろを見てみると、いつもの空色の封筒が張り付いていた。



 でも、いつもと違うところが一つだけあった。


ミユ

何か入ってる……?


 封筒が、変に膨らんでいた。何かと思って開けてみると、そこには――。

6通目 二人の部屋の写真立ての後ろ(4)

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