ミユ

私、やるよ?

タツキ

いい



 タツキは、料理をすることが好きだ。

 社会人になってから、タツキは自律するためにと一人暮らしを始めた。そしてそれから自炊をするようになったらしい。始めたら凝り始めてしまったと言っていたので、どれほどの腕前なのかと思ってみたら……私よりもはるかに料理の腕が立った。



 ずっと実家暮らしだった私は、たまに母が作る料理を手伝ったりしていたけれど、そこまで上手いというわけではなかった。そのことをタツキも知っていたので、料理を二人でするときは、なかなか手伝わせてくれない。こまやかな作業が求められる料理は特に。

ミユ

……私だってできるのに、料理



 そこまで壊滅的に下手なわけではない。少し大ざっぱなだけなんだ。タツキは、いつもは靴下だって穴が空いているものも平気で履くくせに、料理の時になるとずっとなぜか几帳面になって、きっちりやらないと気が済まなくなるスイッチが入る。


 そういう一面もあるのに、洗濯や掃除は好きじゃないんだから、少しは料理の時のきちんとした性格を他のものにも応用して欲しい、と思ったりしてしまう。

タツキ

じゃあミユは卵混ぜて


 いつもタツキが決めた料理を作るときは、こういった簡単なパートしか任せてもらえない。だから、ひそかに料理教室に通おうと思ったりしている。

ミユ

はーい


 ちょっと不満げに返事をしたけれど、タツキはそんなこと気にせずに、フライパンの中身に味付けをしていた。


























 もちろんタツキが遅いと私が料理を作る。私たちのルールは、仕事終わりが早かった方が夕ご飯を作る、というものだった。

タツキ

ただいま

ミユ

おかえり



 ドアが開く音がすると、私は玄関までタツキを迎えに行く。もちろん、私が帰って来たときもタツキは玄関まで迎えに来てくれた。そして、必ずタツキは出迎えた私に一つのキスを落とした。これが、私たち二人の習慣だった。

タツキ

ねえ、お風呂にする?ご飯にする?それともわ・た・し?って新婚さんの定番のヤツ、いつやってくれるの?

ミユ

新婚さんじゃないからやりません!!


 ふざけてそんなことを言うタツキに、毎回ドキドキさせられているのを、多分タツキは分かってやっている。私の反応を楽しんでいるに違いない。

 ……いつか、不意打ちでこれをやってタツキをドキっとさせてやる、と心の中で思いながらも、私の心臓はまだそれをできるほど強くはなさそうなので、いつの日か実行できるように願っておこうと思う。

タツキ

お、なんかいいにおいがする

ミユ

今日はドライカレーに挑戦してみました!


 私がそう言うと、タツキは目じりを下げた。

タツキ

腹ペコなんだ。食べよう

ミユ

うん!


 タツキが部屋着に着替えている間に料理を温めなおしてテーブルに並べる。着替え終わったタツキは、準備を手伝ってくれた。

タツキ

おいしそう!いただきます

ミユ

いただきます


 二人で向かい合って食べるご飯は、どんな料理だってごちそうになりうることを私は知っていた。

タツキ

おいしい

ミユ

よかった!

 その日一日のことを二人で話しながらご飯を食べる。この時間は、私にとってとても大切なものだった。



6通目 二人の部屋の写真立ての後ろ(2)

facebook twitter
pagetop