扉を開け、誰もいない薄暗い部屋にポツリとつぶやくと、ぐっと寂しさがこみ上げてくる。
ただいま
扉を開け、誰もいない薄暗い部屋にポツリとつぶやくと、ぐっと寂しさがこみ上げてくる。
おかえり
いつもそう返してくれたあなたは――もういない。
二人で悩みに悩んで決めた部屋はこじんまりとしたアパートの角部屋で、日差しがたくさん降り注ぐ十分満足できる部屋だった。
家具も二人でそろえた。もちろん、実家から拝借したものもある。
私のお気に入りは、二人で寝てもまだスペースが余る大きいベッド。マットレスが柔らかく、それに加えて一緒に寝るとタツキの身体が温かいので一瞬で眠りにつけた。
朝、一日の始まりはタツキを起こすところから始まる。寝起きのいい私とは対照的に、タツキは朝にめっぽう弱い。
私はケータイのアラームが鳴るとすぐに起きることができたので、ちょっと早めにセットした、枕元に置いてある時計のタイマーが鳴り始めたらそれをすぐに止めて、まだ寝ているタツキの顔を少しだけ見ることが私の朝の日課だった。
タツキが幸せそうに寝ているのを見ると、私も幸せな気分になった。
起きて……起きて、タツキ
ん……もうちょっと
一緒に横になりながら私が声を掛けるとタツキは決まって寝ぼけながら私を抱き寄せて、眠たそうなまぶたを一瞬だけ開いて私の唇にキスを落とした。
またすぐに寝てしまうのだけれど、そのキスが愛おしくて、私は毎日タツキを起こすのが楽しみでもあった。
仕事、行かなきゃでしょ?
んー、行く。行くけどもう少し……
だーめ
私が自分の身体を起こそうとすると、腰にぎゅっと抱きついて、眠そうな目で私を見上げた。
永遠にこのまま二人でベッドの上にいたい――。
そう思ってしまうほど、タツキのまなざしが愛おしかったけれど、仕事があるんだからと自分に言い聞かせて、心を鬼にしてタツキの足の裏に手を伸ばしてくすぐる。
や、やめ!ちょ……!
これが一番効くことを、タツキと長い時間を共有してきた私は知っていた。