母が作ってくれた夕ご飯は、どれも私が好きなものばかりだった。

 痛いほどに、私を心配してくれているということがわかったけれど、食欲は一向に湧かないし、さらにはうっすらと吐き気まで催してきてしまったので、食べられそうなものだけを選んで少量口に運んだ。



 そんな私の姿を、父は何も言わなかったけれど、心配そうに見ていた。





 夕ご飯の後、私は自分の部屋に来ていた。きっと、ここにある。私のカンはそう告げていた。

 高校の卒業アルバムを棚から取り出し、あの時と同じようにテーブルに広げた。違うことは、今私がこれをたった一人ぼっちで見ているということだけだ。



 そして、私はタツキと私のクラスのページに、いつも通り空色の封筒が挟まっていたのを見つけた。

ミユへ

四通目だね。おめでとう!
これを隠すためにミユの実家にこっそり来て、お父さんとお母さんに会いました。

今、ミユの部屋で手紙を書いています。なんか変なかんじ。笑
ここに来るとやっぱりミユが両親から大切に大切に育てられてきたのだなと実感して背筋が伸びるなあ。いつも緊張する。笑

同棲の話をしにきたとき、余裕ぶったふりしてたけど、俺実はめっちゃ緊張しててさ。でも、あの時俺が持てる最大限の勇気振り絞ってがんばったんだよ。どうだったかな?俺。ちょっとはミユの目にかっこよく映ったかな?

じゃあ、最後の手紙でまた
タツキ

p.s 中学のアルバム、まだ見てないから今度一緒に見ようね

 手紙を読み終わり、帰ろうとしたら母が紙袋を持って玄関に出てきた。

ミユの母

これ。包んだから食欲があるときに食べなさい

ミユ

ありがとう、お母さん


 優しさが、じくじくと心に沁みる。声には出せなかったごめんねを、心の中で一言付け足した。

ミユの母

あと、タツキくんから。“ミユの笑顔が、何より好きだ。一番大切な場所で会おう”って






 タツキの最後の伝言を聞いて、私はその言葉を頭の中で反芻していた――。

5通目 実家の卒業アルバムの間(5)

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