赤島夕人

なんだったんだ。さっきのは

結局俺はあの後、先生にこっぴどく怒られた。

授業をさぼること。変な人形を学校に持ってきたこと(持ってきたわけではないのだが)。様々な問題を指摘されたが、先ほどの奇っ怪な出来事の衝撃が強すぎて、頭に何も入ってこなかった。

それにしても、今年になってから変なことが次々と起こる。

赤島夕人

疲れてんのかな

あるいは、憑かれているのか。

俺はもやもやした気分を抱えながら、教室の扉を開く。

昼休み真っ只中の教室では、生徒達がそれぞれの余暇時間を過ごしていた。

ご飯を食べる女子グループも、宿題を進める眼鏡の生徒も、談笑に花を咲かせる男女グループも、

皆、こっちを見た。

……

俺は誰にも話しかけず、自分の席に座った。

クラスメイトのひそひそ話が耳に障る。気になったので、ひそひそ声のする生徒達の方へ顔を向けた。

すると、それまでこっちを見て陰口を叩いていた同級生達は、一瞬で目を背け、黙り込んだ。そして、クラスの空気は重たくなった。

相変わらず、俺はこのクラスにとって、腫れ物のようだ。

やがて、昼休みの終了を告げるチャイムが学校中に響き渡り、午後の授業が始まった。


ろくに授業へでていないため、内容がさっぱり解らない。

俺は相変わらず、先ほどの出来事について思い出していた。

くろりとましろ。

たしかにあの幼女達はそう名乗った。あれは幻覚ではないはずだ。話もちゃんとした。

くろり

にこにこ

ましろ

にこにこ

もしや、あれは幽霊だったのではないだろうか。過去に、この学校で死亡した幼女の霊。

くろり

にこにこ

ましろ

にこにこ

いやいや。それはさすがに馬鹿げている。この世界に幽霊なんているわけ……

くろり

わっ!!

赤島夕人

うわあ!!

突然俺の後方から、聞き覚えのある叫び声が飛んできた。あまりに唐突すぎて、思わず立ち上がってしまった。

後ろを見ると、さっき消えたはずの双子がそこにいた。

くろり

わーい。またびっくりした~!

ましろ

おもしろーい

赤島夕人

またてめーらか!!

今度という今度は、俺も怒ったぞ。

赤島夕人

お前達、さっきはよくも逃げてくれたな。大変だったんだぞ。不気味な人形まで掴ませやがって

ましろ

ごめんね。私たち、お兄ちゃんに言いたいことがあってここに来たんだー

赤島夕人

言いたいこと?

くろり

そ! でもその前に、授業はちゃんと受けなきゃね

赤島夕人

はっ!

くろりの言葉で、俺が今教室で授業を受けていることを思い出した。

クラスを見渡すと、生徒一同と先生がこっちを向き、唖然としていた。

赤島夕人

すいません。こいつら、職員室連れて行きます

慌てて皆に言い訳すると、さらにざわつく。

学校に子供が入ってきてこんなに騒がれると、ざわつくのは無理もない。

三暮先生

赤島君

数学教師の三暮先生が発言すると、クラスは一瞬で静まりかえった。

三暮先生

いったい君は誰と話していたのですか?

赤島夕人

……え?

三暮先生

私には、あなたが突然立ち上がり、一人で騒いでいたようにしか見えなかったのですが……

赤島夕人

……

赤島夕人

うそだろ?

まさか。皆はこいつらが見えてない?

俺はくろりとましろを再度確認した。

二人は再び、姿を消していた。

三暮先生

大丈夫ですか?

赤島夕人

……

幽霊とでも話してたんじゃない?

さすが化け物。怖いわ~

クラスで俺の噂をする女生徒が、俺のことを化け物だと罵った。

俺は何も言い返せずに、自分の席に着く。

確信した。あの二人は幽霊だ。


授業が終わり、俺は早退することにした。荷物をまとめて廊下に出た。

こんな不気味な場所、もうこりごりだ。

学校なんて辞めてしまおう。

くろり

お兄ちゃん、どこ行くの?

赤島夕人

うわ!!

再々度、幼女の幽霊達は俺の前に姿を現した。

ましろ

うわ!!って……。ひどいなあ。そんなに驚かなくてもいいのにー

赤島夕人

うるさい! 幽霊共め。俺に何の恨みがある

俺は二人の霊を警戒するように、五メートル程、距離を取る。

くろり

私たちの場所でいっつも昼寝してたから、少し脅かしてあげただけだよー! ねー!

ましろ

ねー!

赤島夕人

場所? もしかして、あの木の下か?

あそこはこいつらの住処だったのか。

不運だ。あんないわくつきの場所で昼寝していただなんて。

赤島夕人

もうあそこで昼寝するのはやめる。だから俺につきまとうのは勘弁してくれ!

くろり

やだ~! 私たち、お兄ちゃんの事好きになっちゃった

ましろ

お兄ちゃんの反応、おもしろいもんね!

二人の霊はくすくすと無邪気な笑みを見せる。

くろり

あと、お兄ちゃんの中にある『それ』にも興味あるんだよね

それ?

ましろ

そーそー!私もびっくりしちゃった。お兄ちゃんの中に『あれ』がいるなんて

あれ?

赤島夕人

お前達、何を言っているんだ?

俺は幼女の霊達が言っている事がよく理解できない。

また、普通に霊と会話していることに気づき、背筋に寒気を覚えた。

ましろ

お兄ちゃん、『あれ』に気づいていなかったんだね

くろり

私たち、お兄ちゃんに『それ』の事を教えようと思って戻ってきたんだー

赤島夕人

そのせいで、俺はクラスでやばい奴というレッテルを貼られたんだが

俺はあのクラスで問題を起こしすぎた。

もう普通の人として、あのクラスで生きていくことは困難であろう。

赤島夕人

で、なんだ? あれとかそれとかって

くろり

あのね、お兄ちゃんの中に『怪』がいるの

怪? 何を言っているんだろう。

ましろ

それも、結構危険な奴。お兄ちゃんがまだ喰われてないのが不思議なくらいやばい奴

俺には何のことかわからない。俺の中に『怪』がいるなんて話。

赤島夕人

お前達、何を言っているん……

くろり

お兄ちゃんの中に『鬼』がいるの。身に覚えない? 過去に出てこなかった?

ましろ

いや、出てきてるはずだよ。よく思い出して

こいつらが何を言っているのか分からない。分からない。分からない。分からないんだ。

『鬼』が俺の中にいる。そんなはずはない。あれは夢だったんだ。幻覚だったんだ。妄想だったんだ。

俺には何も分からない。

赤島夕人

何のことだ?

嘘をつくな

貴様は俺様の事を知っているはずだろう?

やめろ。

忘れたか? 皆の前でアレを殺した事を

やめてくれ。

皆の前で、『鬼』になったことを

割れそうな頭を押さえながら、俺はしゃがみ込んだ。






少し過去の話をする。

俺が高校へ入学してから一週間が経った頃の話だ。

つ づ く

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