父親はこの家で数時間眠り、朝方仕事へと向かっていった。
玄関まで行き、手を振って父親を見送ったナキ。その姿は、娘そのものだった。
父親はこの家で数時間眠り、朝方仕事へと向かっていった。
玄関まで行き、手を振って父親を見送ったナキ。その姿は、娘そのものだった。
……ナキお姉さん
ナキと言う名前を知られてしまった為、今までのお姉さんに名前をプラスされてしまった。言われなれない為、少々むず痒い。
ナキは、何? と手首を傾げた。
実は、朝方、出る前にお父さんに言われてね。この家を、返してもらえないか? って
ナキは驚いて手をのけぞらせる。その後、オロオロとしながらミシェルへと近づいていく。大丈夫なの? と尋ねるように。
正直きついんだけどね……でも、次の家はお父さんがお金出してくれるらしいし、何だか二人を見てたら、僕っていない方が良いのかなって思っちゃったりもしたんだ
ナキはブンブンと手を振る。そしてミシェルの服を掴むと、リビングへと連れていく。
テーブルから手を出すと、トントンとテーブルを叩いた。座って、の合図だ。
ミシェルが着席すると、ナキはいつものように、メモ紙にペンで文を書き始める。
父には感謝してるけど、私は君と一緒にいる方が、楽しくて、辛くないんだよ
辛くない?
うん。とナキは頷く。
父の言う通り、家族のいなくなってしまったこの場所は、辛いことばかり思い出してた。私自身。でも、この場所を他人に壊されるのだけは嫌だった。だから、人を追い払った
う、うん
君だけだったの。私が住まわせても良いって思えて、私がこれからも一緒にいたいって思ったのは
どうして?
それは……
”君のことが”で、書くことを止めた。
この本心を伝えたら、尚彼が居づらくなってしまう。それに、手一本の幽霊にそんなこと言われても、向こうだって嫌なはず。
ミシェルが不安そうにナキを見つめているので、ナキは文字を続ける。
君のことが、心配になっちゃうからだよ
えー。そうかぁ……そうだよね。ナキお姉さんには、心配ばかりかけてるよね
困ったような顔をするミシェル。ナキは、「大丈夫よ」と書くと、ミシェルの椅子から手を伸ばし、ミシェルの頭をくしゃくしゃと撫でた。
――続