四人用のリビングテーブルに、ミシェルと男性が座って向き合う。その姿を、ナキは隣の部屋の扉越しに見つめていた。

真夜中にすまないね。仕事の都合上、どうしても空きがこの時間になってしまうんだ

いえ、お構いなく。ところで、此処へいらっしゃった理由は?

 はっきりとした、大人にも引けを取らない少年の口調に、男性……ナキの父親は驚かされる。また、この少年だからこそ、この家に住んでいるんだろうとも感じた。

噂を聞いたんだ。この家に……幽霊が出るって

いそうな気がします?

……どうだろう? でも、君には申し訳ないが、いて欲しいと思ってしまう私がいるよ

もしかして、会いたいんですか?

 笑顔で尋ねるミシェルに、父親は重々しく頷く。

以前、私は仕事ばかりをして、家族のことなんて一切気にかけてやれなかったんだ。君は知っているかもしれないが、そんな時に、家族が事故で亡くなったことを聞いた。私は残業で職場で眠りこけていて、気付いた時には、ナキも亡くなっていたんだ

そう……。きっと、寂しかったと思いますよ、ナキお姉さん

すまない……

 父親は、深々と頭を下げた。それは少年に対してか、或いは、この家の中のどこかにいるであろうナキにか。

 そんな父親の様子をみていると、胸が痛むようだった。怒りや悲しみよりも、たとえ自分が幽霊でも、いると知って戻ってきてくれた父親への驚きが強い。

でも、だったらどうしてこの家を出て行っちゃったの?

ああ。私も後悔している。この場所は、辛い思い出しか無かったから、違う場所に住みたいと思ったんだ。でも、もしこの家に誰かがまだいるのだとしたら……会いたいんだ

それが、たとえどんな姿でも?

あ……ああ

 父親は、真っ直ぐな瞳をミシェルに向けた。ミシェルは、その表情と目つきを見て、父親へと頷いた。

 ミシェルが席を立つと、隣の部屋の扉を開けた。扉に手をかけていたナキは、ビクッと震える。その手を掴んで、

大丈夫。行こう

と、ナキに言った。

 ナキは、父親の方へと視線をやる。すると、父親は自分の姿に驚いた顔をしつつも、その目から涙をこぼしていた。怯える様子は見えない。

 その姿を見て、ナキはミシェルへと頷いた。

 ミシェルが手を放すと、ナキは地面に消え、そしてすぐに泣いている父親の目の前へと移動した。ナキは父親の前から手をにょきっと出すと、父親の涙を拭った。

分かる? ナキお姉さんだよ

ああ……分かる。分かるよ

 父は泣きながら、ナキの手を掴んだ。

 それから、ごめん、すまないと何度も謝ったが、どれにもナキは手を横へ振った。

 正直言えば、初めは、仕事ばかりで、家もすぐ出て行った父を嫌っていた。

 だが、自分へと会いに戻ってきてくれた父。そして、自分のこの姿を見ても、怖がらずに娘として接してくれる父。この身に目があれば、父同様に涙を流していたことだろう。

素敵だね、家族って

 二人の姿を見て、少年は言った。

――続

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