少年と共にリビングへ移動し、少年は椅子に座り、ナキはリビングテーブルから手を出して、近くにあったメモ帳とペンを利用し、文を書く。

何かあったの?

うん。ちょっとね

 言葉を濁す少年に、ナキは文を続ける。

ちょっとって何? さっきの物音、すごく気にしてたように見えるよ。何か、悩みがあるんじゃないの?

……そうだね

 少年はそう答えた後、躊躇うように視線を逸らし、頬杖をついて物思いにふける。

 ナキは少年の腕を叩くと、更に文を書いた。

私、手一本なんだから。何聞いたって大丈夫だよ

 自虐するナキに、少年は控えめに笑った。

それもそうだよね

 少年の言葉に、ナキはこくこくと手を振る。少年に笑顔が戻って安堵していると、少年は頬杖をつきながら、ナキを見つめて微笑んだ。愛らしいものでも見つめるかのように。

 今まで視線を逸らされていたかと思えば、急に見つめる少年にナキは戸惑い、しきりに指先を動かす。

 その手を少年にグッと掴まれると、ナキはビクッと手先を震わせた。この身に心臓がついていれば、確実にドキドキと鼓動を高まらせていたことだろう。

 少年は両手でナキの手に触れると、

聞いて

と、ナキを見つめて言った。少年に手を掴まれているため、ナキは指先をわずかに動かして頷きを示す。

急に一軒家に子供が越してきて、お姉さんびっくりしたでしょう?

 ナキは指先を動かす。少年も一回頷くと、また話を続けた。

でも、一人なのには理由があるんだ。実は僕……

 固唾をのんで見つめる。少年は一旦視線を逸らし、言うべきか迷っていたが。すぐに視線を戻すと、ナキに言った。

殺人鬼なんだ

 手が震えた。

 予想だにしない答えだった。こんな可愛らしい顔の少年が、まさか人を殺すのか。

 そしてまた、この人の多い住宅街へやって来て、この家に住み、今この手を掴んで見つめている。

 この視線は、人の肉を見つめる目だったと言うのか。

 思考を巡らせていると、少年はクスクスと微笑んだ。

ごめん、ウソ

 なんだ、嘘か。ナキは指先を曲げた。そうは思いながらも、内心安堵している。

 少年は両手を話し、その手を膝の上に乗せると、改まって話し出す。

実は、その逆でね。殺人鬼から、狙われているんだ

殺人鬼に?

 少年は頷いた。

――続

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