少年が住み始めてから早半月が過ぎた。人々からの悪い噂は絶えず、人々は少年との関わりを極力控えるようにしていた。少年もまた、彼らの気持ちを察し、人々とはなるべく関わらないようにしていた。

 そして深夜。人々が寝静まる時間。また、少年にとっても、安眠の時間となっていた。

 しかし、その最中(さなか)である。

――ドンドン。

 真っ先に音に気付いたのは、ナキだった。

誰だろう

 扉を叩く音。それは過去のトラウマをぶり返すようだった。それも、こんな深夜に。

 だが、だからこそ。少年に不快な思いをさせるわけにはならない。自分が行かねば。ナキは玄関へと手を伸ばし、扉のドアスコープに手を当てる。

 その掌から奥を覗き込むと、そこには何もいなかった。

 それと共に扉を叩く音も止み、ナキは手首を傾げる。

どうかした~?

 少年は目をこすりながら、階段を下りてナキの下へ向かった。ナキは簡潔に伝えるべく、扉から玄関床へと移動し、そこから扉をドンドンと数回叩いた。

え、誰か叩いてったの?

 少年は額から冷や汗を流した。ナキを見ても驚かなかった彼にしては、珍しい反応だ。ナキは驚く。何か思い当たるふしがあるのかと考えていると、少年は呟いた。

もう来たのか

 何かあった? 尋ねるように手首を傾げてみせたが、少年は微笑を浮かべてナキ同様に首を傾げた。

 しかし、自分は少年のことを知っているようで何も知らないのだ。あろうことか、名前すらも。

 ここで聞かねば、きっと一生教えてもらえない。扉から手を出し、少年の肩をトントンと叩いた。それは、話せない彼女にとっての、「教えて」のサイン。

やめて。お姉さん

 難色を示す少年。今度は、強めに少年の服を掴んだ。

 すると少年は困った顔つきで、しばらく考え込んでいた。

お姉さん

 少年は振り返り、玄関扉から伸びる手を見つめる。

 ナキは、服を掴んだまま、少年を見つめる。

一緒にいても良い?

 少年の弱い部分を垣間見たような気がした。服からゆっくりと手を放し、ナキは頷いてみせた。

 少年は嬉しそうに微笑んだ後、ナキから顔を逸らして、

行こう

と、リビングへと歩き出した。

――続

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