来栖 禅

皆様は、ご家族を
大事にされていらっしゃいますか?

それとも……家族なんていうものは、
同じ家で暮らす他人
といった感じでしょうか?

来栖 禅

……いやはや、
突然申し訳ありません。

実は、私には
家族と呼べる人間がいないので……
血の繋がった人間と、
ひとつ屋根の下で
生活するという感覚が、
ついつい気になってしまうのです。

来栖 禅

おやおや、
同情してくださるのですか?
ふふっ、大丈夫です。
私にはアトがいます。

彼は私の兄弟、
いえ……半身のような……。

魚喃 アト

うおおおおいっ!
勝手に兄弟扱いすんなっつーの!
オレ、禅のこと
そういう風に見たことねーし!

来栖 禅

……なんということでしょう?
告白したわけでもないのに、
まるでフラれたような気分です……。

魚喃 アト

そういうとこが
キモいんだよ……おめーわ。

つーか、お前に
身内がいないのは
お前が全員ぶっころ……。

来栖 禅

何はともあれ、
本日の謎はこちらになります……。

表題は『家族の風景』。
皆様は、どうかご家族の方と
仲睦まじくお過ごしくださいまし。 

 

第七夜「家族の風景」

『もしもし、母さん? 私、私』

『私って……誰よ』

『やあねぇ!
 娘の声も忘れちゃったの?』

『もう……違うわよ。
 ほら、オレオレ的な詐欺かと思ったの』

『なーんだ、そうだったの!
 でも、さすがに
 娘の声ぐらい分かるでしょ?』

『あなただって、
 母さんの声すぐに分かるの?』

『うーん、そう言われたら自信ないかも……』

『でしょ? そんなもんよ。
 それより、どうしたの?
 母さん、ちょっと今……忙しいんだけど』

『忙しいって、なにやってるの?』

『お肉、切ってるの! 夕飯の支度よ』

『そっか、そっか!
 じゃあ、父さんにかわってもらえる?』

『ええ、ちょっと待ってね。おとーさーん!』

『まったく、なんだ?
 部屋の片付けで忙しいというのに……』

『もしもし、父さん? 私、私』

『私って……誰だ』

『やあねぇ! 父さんまで
 同じリアクション
 しなくてもいいじゃない!』

『最近は物騒だからな……
 用心しているだけだ』

『ふふっ、いい心がけだと思うよ。
 ほら、最近ニュースでやってるでしょ?
 家の人が急に消えちゃうって事件……。
 あれ、本当に気味が悪いわよね……』

『ああ、それなら父さんは大丈夫だ。
 そんなことより、
 お前は自分のことを心配しなさい』

『もーっ!
 せっかく気にしてあげたのにー!
 あっ、そうだ……サリーは元気?
 ぜんぜん、声がしないけど……』

『ワンッ! ワンワンワンッ!』

『なんだ、いたんだ!
 あははっ、相変わらず元気そうね!』

『ああ、毎日イタズラばかりだ。
 じゃあ、もう夕飯ができたから切るぞ』

『うん、また電話するわね!』

私は通話をオフにし、心配そうに
こちらを見つめる愛犬を抱きしめた。

それから、もう一度
携帯の画面に指を走らせ、
今度は警察にかけた。

 


来栖 禅

いってらっしゃい、
おかえりなさい……。

家族の間には、
温かい言葉が行き交います。

私もいずれは所帯を持ち、
愛する妻に行ってらっしゃいませと
言われてみたいものです。

魚喃 アト

逝ってらっしゃいだったら、
毎日だって
言ってやんぜ……タコ助が。

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