第六夜『さよなら妹』

俺と妹は仲が悪い。
だから可愛いと思ったことがない。

俺の妹がこんなに可愛いわけがないってぐらい、
可愛いわけがない。

理由は簡単。
小心者でクソ真面目な俺と違って、
妹は夜遊びばかりして、
親の金を盗んだり
俺の持ち物を勝手に転売したりする
最悪なヤツだからだ。

俺や親父、お袋が
散々注意しても妹は改心しない。
それどころか、俺達を煙たがって
非行街道一直線。

妹によると、今付き合ってる彼氏は
かなりヤバイヤツらしく、
人の頭を金属バットで
迷い無く殴るのだそうだ。

なんだそれ？
ヤンキー漫画じゃあるまいし……。

だけど……最近、
妹が妙にしおらしい。

数日前に、俺と親父が
猛烈に説教したのが効いているのか？

「お兄ちゃん、私のこと怒ってる？」
なんて聞いてくる。

俺の態度を探るような
弱々しい口調と上目づかい。
おいおい、ちょっと可愛いじゃないか。

お兄ちゃんだけど愛さえあれば
関係ないよねっ的な展開なのか？

しかも、ここ数日、
夜遊びの回数も減ってるようだ。

以前は毎日のように出かけていたのに、
最近では２日に１度の割合になった。

さらには、親父達にも
反抗しないようになりつつある。


なんだ？　何が起きてるんだ？


普段は横暴なヤツが急に優しいと、
妙な親近感が沸いてしまう。
ジャイアン効果だ。

『妹よ、何か困ってるなら
兄が助けてやるからな。』

嬉しさのあまり
こんな言葉も飛び出てしまう。
すると、妹は引きつった笑みで頷き、
逃げるように家を飛び出した。
失礼なヤツだな……。

反抗期の妹を魔王の力で支配してみた。
って感じにはいかないようだ。

俺はやれやれと肩をすくめた。
すると、足元に妹の手帳が
落ちているのを見つけた。

よしよし、読んでやるか……。
いたずら心に火が灯る。

開いてみると、可愛い文字で
他愛も無い話が延々書かれていた。

だけど、最後のページに、
奇妙な日記が記されているのが目に入った。

１日目　　アツシが私の為にがんばってくれた
２日目　　新しい生活がはじまった
３日目　　変だ……なんかおかしい
４日目　　いったい何が起きてるの？
５日目　　確認しに行ったけどちゃんと死んでいた
６日目　　いつも通り生活している
７日目　　掘り起こしたけど死んでた
８日目　　仏壇に祈った、
　　　　　お金は返した、でも意味は無かった

９日目　　ガソリンを用意した。
　　　　　死体をぜんぶ燃やした

１０日目　無駄だった。私がバカだった

１１日目　アツシがおかしくなった
１２日目　私に酷い暴力を振るうようになった
１３日目　ケガが酷い……動けない、暗いヤバイ

１４日目　１日寝たら、すごく体が軽くなった
１５日目　アツシが優しくなった
１６日目　今なら、お兄ちゃんの気持ちが分かる

おいおい……どういうことだよ。
途中の内容、ヤバすぎねぇか？

まさか、妙な犯罪に
巻き込まれたんじゃないだろうな？

そういえば、今の彼氏って、
街で有名なカラーギャングの
メンバーだって自慢してたよな。

妹が殺しの手伝い？
洒落になってねぇよ。

バカな妹だけどさ、
根は悪いヤツじゃねぇんだ。
帰ってきたら、
ちゃんと話をしてみよう。
親父やお袋も、
きっと妹を心配するはずだ。