本日は健やかな晴天で、家族連れも多く外へ出ている。しかし、少年は何時もの家の中からそれを見つめるばかり。

やっぱり、一人だと寂しいのかな

 不審には思っていたが、少年はこの家にたった一人で入居してきたのだ。どうやってこの少年が、このような幽霊のいる家に入ってこれたのか。疑問はつきなかった。

 ナキは少年の服を掴んで引っ張り、玄関先まで連れていく。そこで手を放すと、玄関扉を指差した。

外へ行きたいの?

 ナキは手を横へ振り、少年を指差し、次に玄関扉を指差す。少年が自分を気遣ってくれていることに気付くと、笑顔になる。

気遣ってくれて有難う。でも、実は外って苦手なんだ。人が沢山いるでしょ? あれがね

 あれ程家族連れを羨ましそうに見つめていたと言うのに、人嫌い? とてもそうは見えないのだが。第一、手のみの人間の自分を気遣ってくれる彼の優しさは本物にしか思えない。ナキはもう一度少年の服を掴み、引っ張って誘導する。少年が、

はいはい

とついてくると、ナキは窓の向こうにいる家族を指差した。

お姉さん、家族が気になるの?

 ナキは違う違うと手を振り、少年の服を二度引っ張ると、次に家族を二度指差す。自分のことを思ってたのか。少年は気付いた。

僕が一人なの、気になる?

……

 手を曲げて開いてを繰り返し、頷きを示す。

 ナキの反応を見ると、少年は自身の座高より高さのある椅子に座り、リビングテーブルに膝をつけて家族を見つめた。

 ナキも彼の目線に合わせるように、テーブルの上から手を出し、掌を家族へと向ける。

家族って、何だか幸せそうだよね。お姉さんも、家族いた?

 ナキが頷いてみせると、次に少年は天井を見上げた。それに気づいたナキは、今度は少年の方へと掌を向ける。

お姉さんの家族って、やっぱりお母さん、お父さん、弟さんとかって感じ? それとも妹さんかな?

 尋ねられたナキは、手の甲を少年に向けると、指先をテーブルへ付けて、指を滑らせる。

”父”、”母”、”弟”

そっか、そんな気はしてたんだ。ちょっとお節介なところとか、お姉ちゃんっぽいなって

でも、母と弟は事故で亡くなって、ショックで私は命を絶ったの

お父さん置いて?

 少年は厳しい顔つきでナキを見る。事情を説明するには長くなりそうだ。ナキはテーブルの上にあったメモ帳とペンを少年の前まで持っていき、それで文字を書き始める。

父は単身赴任中だし、家に戻ってくることなんて滅多に無かった。私や母、弟が死んだ後、あの人はすぐに家を売却した。きっと、嫌いだったのよ

そういうものなのかなぁ? 僕にはよくわからないけど……あの家族もそうなの?

多分、あの家族は違うよ。本当に仲睦まじくて、幸せそうだから

ふぅん。そっか

 少年はそこで一旦会話を終えると、ナキからペンを奪い、メモ帳を一枚剥がして絵を描き始めた。出来上がったのは、黒く、前髪の長い、いわゆる”貞子”に近いイラストだ。

お姉さんって、こんな感じ?

 まさか! ナキはブンブンと手を振り、絵の描かれたメモ帳をはぎ取り、そこに自画像を描き始める。そこに描かれたのは、黒髪の、どこかミステリアスな少女の姿。正に生前の彼女そのものだった。

 少年はその絵を見て、ほぉうと感心する。

お姉さん、やっぱり美人だったんだね

!!

 つい正直に自画像を描いてしまい、恥ずかしくなった。途端に、ナキは自画像へとペンを乱雑に走らせ、自画像は真っ黒なインクで塗りつぶされてしまった。

あー!!

 少年が惜しそうに紙に顔を近づけると、ナキはその額にデコピンをした。

――続

pagetop