情報漏洩のお礼として、信也を半殺しにした俺は、控え室で最終試合の開始時刻を待っていた。

 控え室には、俺が一人。俺の出す物音以外は無音だ。

 控え室の中央に置いてある大きなテーブルには、バーチャルモニターが表示され、体育館の今の状況が映し出されている。

 最終試合ということで、観客もかなり集まっているようだ。

神裂 優斗

 今度は油断しないようにしないとな。

 俺は、小さく呟く。道場では油断していたが、今までの攻撃を見る限り、技の一つ一つは、防げないものではない。

 だったら、希の瞬間練成だけに気をつけていれば、何とかなる。でも、いざとなれば、本気を出すことになるかもしれないか。

 そんなことを考えながら、ふと、控え室の壁にある時計を見ると、休憩時間の残りが、あと五分になっていた。

神宮寺 瑞希

 さあ、皆さん、お待たせしました!

 まもなく最終試合の開始時刻です!

 「ウオォォォ!」
 
 瑞希の声に観客が歓声を上げる。

  その歓声と共に体育館のドアが開き、神裂 希が姿を現した。

 霧咲との試合により、ダメージを負った希であったが、医療斑の治療により、ある程度であるが、回復した様子であった。

神裂 優斗

 こんなに早く再戦する機会ができて、良かったよ。

  俺は、右手を差し出し、握手を求める。

神裂 希

 そうだね。私も、ユウの本気を見てみたかったし。それに……。

 そこまで言うと、希は言葉を飲み込んだ。

神裂 優斗

 それに?

 俺が聞き返すと、希が笑って言った。

神裂 希

 それに……、また、ユウと戦える。

 今度は、昨日みたいに一瞬で終わって欲しくないけどね。

 そう言ってウインクをした希は、さっさとスタートポジションに行ってしまった。

神裂 優斗

 お、おい!

 昨日は油断しただけだからな!

 俺は、希の後ろ姿に言った。

 希はこちらを見ないまま、片手を振って答える。

 俺もスタートポジションに付こうと、後ろを振り返り、歩き出す。

 「本当の実力を見せてね。」

  不意に希の声が耳元で聞こえ、それに驚き、希の方を振り返ると、希は既にスタートポジションに立ち、自分のデバイスの状態を確かめていた。

神裂 優斗

 え?

 俺は、耳元で希の声がしたことに疑問を感じながらも試合に集中するために、今は気にしないことにした。

神宮寺 瑞希

 では、両者がスタートポジションに付いたので、これより最終試合を始めたいと思います!

 瑞希の声に体育館内が歓声で満たされる。

神裂 希

 本気で来てね。私も本気だから。

 希はやる気に満ちた表情をしている。

神裂 優斗

 ああ、こっちもそのつもりだ!

 お互いが、デバイスに手を掛け、試合の準備が整った。

神宮寺 瑞希

 では、最終戦はじめ!

 瑞希が試合の開始を叫ぶ。

 「BATTLE START!」

 機械音と共に、バーチャルヴィジョンが発動。体育館が姿を変え、草原のステージが出現する。

神裂 優斗

 遠慮なく行くぜ!

 俺は、デバイスを簡易形態で発動し、希との距離を一気に詰め、希に切り掛かる。

神裂 希

 残念。練成形態には効かない攻撃ね。

 そう言って、希は瞬間練成の刀で、優斗の攻撃を受け止める。

神裂 希

 今度はこっちから行くよ!

  希が一気に距離を詰め、練成形態の刀で容赦なく切り掛かってくる。

 俺は、希の刀を受け流し、さらに希との距離をとる。

神裂 希

 ほらほら、防御だけじゃ私は倒せないよ!

 希の連続攻撃を何とかかわしつつ、俺は反撃の方法を考える。

神裂 優斗

 練成速度が速いだけで、俺が、こんなにも劣勢に立たされることになるとはね。

 俺は連続攻撃の中、希に話しかける。

神裂 希

 でも、ユウも本気じゃないよね?

 希が俺に話しかけてきた。

神裂 優斗

 それは、どうかな。

 こう見えて、結構ギリギリの状況なんだが……。

 俺は、希の問いかけに答える。

神裂 希

 私に、リベンジするんじゃ、なかったの?

 希が攻撃の手を緩めずに俺に問いかける。

神裂 優斗

 そのつもりだ!

 俺は希の隙をつき希の後方へ、掻い潜るように連続攻撃から抜け出すと同時に、デバイスの練成を始める。

神裂 優斗

 練成!

 俺は、希との距離を取りつつ、魔方陣を展開、武器の練成にかかる。

神裂 希

 遅い!

 が、地面を蹴り、一気に俺との距離をつめてきた。

神裂 希

 一の型、炎斬剣!

  炎斬剣の爆風と炎で、辺り一帯の草原が燃え、黒い煙でステージが包まれた。

神裂 優斗

 今の攻撃は受け流せなかったよ。

 でも、同じ技で相殺することはできる。

  煙の中から、優斗の姿と、練成状態の武器が現れた。

神裂 希

 はは。そうじゃないと面白くないよ!

 そう言って希は、刀を構え直す。

神裂 優斗

 ここからは、本気だ!

 俺は、希を試合の相手ではなく、敵として相手をすることに決めた。

 すなわち、確実に相手を殺すことだけを考えるということだ。

 本来ならば、対人戦では見せないスタイルだが、相手が希なのだから仕方がない。

神裂 希

 え?

 会場の誰もが言葉を失い、歓声が一瞬で静かになった。

 それもそのはずだ。

 会場の誰もが俺の速さについていくことができなかったからだ。

 希が、その場に倒れ、戦闘終了の機械音が鳴る。

第三十七話:《歓迎試合~二つの炎剣~》

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