俺が体育館に戻ると、体育館内は土煙で満たされていた。

神裂 優斗

 えっと……。状況が読めないな。

 土煙は次第に晴れていき、そこには、壁にたたきつけられたまま動かない静香がいた。

神宮寺 瑞希

 し、勝者は、神裂 希!

 「うおおおぉぉぉぉ!」

 瑞希が勝敗宣言をすると、体育館が喜びと驚きの歓声で満たされる。

 どうやら、勝ったのは希のようだ。

 希は、医療班に担がれる静香を見届けた後、体育館を後にした。

 俺が、希の後を追いかけようとすると、後ろから肩を叩かれた。

 振り向くと、カメラとマイクを持った三人の男女が立っていた。

辻元 陽子

 いよいよ、最終決戦ということになりましたが、今の心境は?

 いきなり現れて、俺にマイクを向けてきたのは、この学校の新聞部の部長で三年生の辻元 陽子だった。

 彼女は、情報収集において、他を寄せ付けないほどの才能を持っており、彼女に狙われたら最期、隠し通せる秘密は一つも無い。

 実際、過去に彼女が暴いた情報のおかげで、世界各国の政界の人間の一部が、その職を失うことになった。

 もちろん、日本政府も例外ではない。

神裂 優斗

 いや、今の心境も何も、全力で相手をするだけですよ。

辻元 陽子

 そうですか。わかりました。

 では、もう一つ。

 そう言った辻元先輩の橙色の目が、輝きを増した。

 その目を見たとき、俺は、質問される内容が大体分かってしまった。

辻元 陽子

 今回の編入生とは、婚約者同士という噂が流れていますが、この噂は事実ですか?

  辻元先輩は満面の笑みを浮かべて俺に質問をしてきた。

神裂 優斗

 じょ、情報が早いですね。

 一体誰から聞いたんですか?

 俺は、辻本先輩に聞く。

辻元 陽子

 それは、私が記者である限り、守秘義務というものが存在しているんですよ。

 だから、情報元はお伝えできません。

 そうは、言われたが、大体の情報元の検討は付いている。

 どうせ、信也が言ったのだろう。後でぶっ殺す。

辻元 陽子

 で、どうなんですか?

 噂は本当なんですか?

 橙色の瞳が俺の目の前まで近づき、彼女の胸が、俺に当たる。

 目を逸らさなければ、見えてしまう。

神裂 優斗

 ち、近いです。先輩!

 俺は、辻元先輩の肩を掴み、目の前の橙色の瞳と俺に当たる二つの柔らかいものを離した。

辻元 陽子

 きゃっ!

 力が強すぎたのか、彼女は転んでしまった。

 同時に、近くに居たカメラを持ったもう一人の男がカメラのシャッターを切った。

「カシャッ!」

 フラッシュとシャッター音が鳴った。

辻元 陽子

 ナイス!

神裂 優斗

え……。

 辻元先輩は、すごい勢いで立ち上がり、俺にマイクを向ける。

辻元 陽子

 さあ、質問に答えないと、この写真で有ること無いこと書いちゃうよー?

 どうやら、辻元先輩に嵌められたらしい。

神裂 優斗

 分かりました。答えますよ。

 その代わり、有ること無いこと書かないでくださいよ?

 俺は、辻元先輩に、俺と希の関係について話した。

辻元 陽子

 ありがとうございました!

 この写真は責任を持って消去しておきますので!

 では、次号、楽しみにしておいてください!

 先輩はそう言って、体育館から風のように去っていった。

榊原 信也

 おーい。優斗。

 タイミング良く、体育館の反対側から、信也を呼びながら近づいて来ている。

神裂 優斗

 おー。丁度良かった。お前に聞きたいことができたんだよ。

 俺は、そう言って信也に近づいた。

 もちろん、聞きたいことなど無い。

 信也をボコボコにするための口実だ。

第三十六話:《新聞部の接触》

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