特別席から戻ってきた俺は、控え室には行かず、体育館の外に出た。

 空は赤く染まり、オレンジ色に輝く夕日の日差しが眩しく思えた。

金剛寺 猛

 神裂。

 俺を呼んだのは金剛寺だった。

神裂 優斗

 おお、珍しく会長の隣にはいなかったな。

 あの一件以来、いつも隣にいるのに。

 俺は金剛寺をからかう。

 
 俺にからかわれた金剛寺が眼鏡を手で直す。

金剛寺 猛

 昔の俺の話はどうでもいいだろ!

 あと、いつも会長の隣にいる訳が無いだろ。

 トイレと風呂と寝る時以外だ。

神裂 優斗

いやいや、お前どんだけ会長のこと好きなんだよ。

 あと、トイレ・風呂・寝る時以外が一緒って相当キモいぞ。

金剛寺 猛

 キモいとか言うなよ。

 最近、影でコソコソ言われていることに気づいてからは、できるだけ距離をとって、双眼鏡で会長を見守るようにしているんだぞ!

神裂 優斗

 いやいや、どう考えてもキモいだろ。

 距離を取ってもストーカー行為に走ってる時点でアウトだから。

金剛寺 猛

 愛の形は人それぞれだろ?

神裂 優斗

 ストーカー行為を愛の形って言ったら愛の概念がおかしくなるわ!

金剛寺 猛

 
フンッ、まあ、お前には解らないだろうな。

  金剛寺が捨てられた子犬を見るような目で、俺を見て言った。

神裂 優斗

 いやいや、かわいそうなのは俺じゃなくてお前だよ!

金剛寺 猛

 ハッハッハー。そういうことにしといてやるよ。

 金剛寺は俺の肩を叩いて言った。

神裂 優斗

 はぁ。まあいいや。で? 

 俺に何の用だったんだ?

 俺は金剛寺に聞く。金剛寺も、こん話をしに来たわけではないはずだ。

金剛寺 猛

 ああ、会長のことで話があってな。

神裂 優斗

 風宮会長がどうかしたのか?

 俺は、金剛寺に聞く。

金剛寺 猛

 会長のことを許してやってくれ。

 金剛寺がいきなり頭を下げた。

神裂 優斗

 何かと思えば、またその話かよ。

 俺は、ため息を一つつく。

神裂 優斗

 前回の事件で救えなかった子供のことだろ?

 俺は金剛寺に聞く。

金剛寺 猛

 ああ、お前が行けば助かる可能性が有ったのは事実だ。だが、会長はお前を……。

 金剛寺が言おうとしていることは解っていた。だから、俺は金剛寺に被せるようにして言った。

神裂 優斗

だから、その話は昨日の会議で終わっただろ? だから、良いって。

 そして俺は、金剛寺に頭を上げるよう言った。

神裂 優斗

 話はそれだけか?

 俺は金剛地に聞いた。

金剛寺 猛

 あ、ああ。それだけだが……。

神裂 優斗

 じゃあ、俺は体育館に戻るよ。

 そう言って、俺は体育館に戻った。


 あの時、会長が、俺を止めた理由は分かりきっいた。

 あのまま、俺が子供を助けに行っていれば、子供は助けることができたが、俺はどうなるかわからないという状況だったからだ。

 より多くの人を助けるためには犠牲も必要になってくる。

 それが会長の考えだ。

 だが、あの時の子供は俺を見ていた。助けてほしいと目で訴えていた。

 会長の拘束魔法で俺は動けなかったが、動こうと思えば動くことはできたかもしれない。助けることはできたかもしれない。

 だが、そのときは、その場から動けなかった。

 ただ、落ちていく子供を見ることしかできなかった。

 だから、俺は会長が許せない。そして、助けられなかった自分が何よりも許せなかった。

神裂 優斗

 同じ後悔は二度としない……。

俺は、拳を握り締め、次の試合に臨む。

第三十五話:《優斗と金剛寺》

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