上陸した二人は、漁師と別れ酒場に向かった。空腹で気絶していたハルは、一刻も早く何でも口に入れたかったのだ。

ハル

おお~、賑わってるっすねぇ。
いい香りがするっす。

メナ

リユーマイトのお勧めは、
豊富な海産物を使った料理。
新鮮で美味しいよ。

ハル

お腹と背中が
くっつきそうっすよ。
メナ、早く座るっす。

 リユーマイトの酒場はハルの言うようにとても賑わっていた。潮の香りが鼻をくすぐり、色とりどりの料理がテーブルに並んでいる。
 二人は料理を楽しんだ。ハルにいたっては、周りのテーブルの視線が集まるほど皿をかきこんだ。

ハル

ぷっはー!
すっげぇ、旨いっす。
もう一皿頼むっすよ。

メナ

食べ過ぎよ、ハル。
もうやめとこう、ガロンも
随分かかっちゃってるもん。

ハル

確かに食いすぎたっすねぇ。
まぁ、ガロンは
何とかなるっすよ。

メナ

ほんと不思議な人ね、ハルは。
そもそも何で村から出てきたの?

 ハルは食後のスープに舌鼓を打った後、ディープスに向かっている事や、その理由をメナに伝えた。迷宮の話、刀鍛冶の話、迷宮でしか採掘できない鉱石の話、エノクとの再会。メナは一つ一つに頷きながら、ハルの話を聞いていた。そして両親の話になると、目をぱちくりさせて驚いた。

ハル

メナ、どうしたっすか?

メナ

え、あ、あぁ、
え~とビックリしたぁ。

 ハルの声に、少し落ち着きを取り戻したメナ。少しの間を置き、驚きの理由を話し始めた。

メナ

えとね、私の両親も
ディープスの迷宮から
帰ってきてないの。

ハル

えっ!?
メナの両親も同じなんすか?
凄い偶然っすね。

メナ

ほんとビックリしたわよ。
でも凄く人が集まるって
聞いてるから、そんな人達が
多いかもしれないわね。

ハル

そうっすね……。
自分は絶対に爺ちゃんの待つ
村に戻るっす。

メナ

……でもハルは凄いよ。
故郷を出て遠い地に
危険を顧みずに行くなんて。

 メナは俯いた。

メナ

少し羨ましい。

ハル

え?
何がっすか?

メナ

私にはそんな勇気なくて……

 メナは今迄と違って、何とも言えない笑顔をしてみせた。そんな笑顔を見て、ハルは何も言えなくなった。

メナ

宿屋満室だったねぇ。
何軒かあればいいんだけど、
一軒しかないのよね。

ハル

いいっすよ。
そこらへんで
野宿するっすから。

メナ

駄目よ。
風邪引いちゃうもん。

ハル

大丈夫っすよ。
丈夫なのが取り柄っすから。

メナ

駄目。ほっとけないもん。

 すっかり暗くなっていた夜月の下で、宿を探してくれたメナは頬を膨らました。

メナ

私の部屋に来るといいよ。
まぁ、正確には叔母さんの
家だけどね。

ハル

それこそ駄目っすよ。

メナ

ほらほら、行くよハル。

ハル

わ、わわわぅわーっす。

 メナはハルの手を引っ張り歩きだした。

 メナが足を止めたのは、お世辞にも裕福そうではない家屋の前だった。

あら、メナ、えらく遅いお帰りね。
仕事大変だったんでしょう。

メナ

あ、叔母さん。
遅くなりました。
今、帰りました。

メナの叔母さん

ご苦労様。
そちらの方は?

メナ

あ、こちらは仕事でお世話に
なったハルさんです。
どうしても宿がとれなかったので
私の部屋で一晩泊まって
もらってもいいでしょうか?

メナの叔母さん

貴女の部屋は自由に
していい約束よ。
好きになさい。
ハルさん、
メナがお世話になったようで、
ありがとうございました。

ハル

いやぁ。どちらかと言うと
自分の方がお世話に
なったっすよ。

メナの叔母さん

そうでしたか。
さぁ、疲れたでしょう。
遠慮なくお上がり下さい。
狭い部屋ですけどごゆっくり。

 メナの叔母さんはとても美人で親切な人だった。驚くほどとんとん拍子で進んでいく話。他に住人は居ないようで、二人で暮らしているようだ。ハルは折角の好意なので、ありがたくメナの言う通りにする事にした。

 メナの部屋は、こじんまりとしているが、とても綺麗に片付いていた。と、表現するより、ベッド以外で言えば、衣類を掛けるスペースと小さな机、それにちょっとした小物程度しか置けない広さだ。小さな窓が一つだけあり、天井も低い。

メナ

ハル、疲れたでしょ。
私、叔母さんに話があるから、
眠かったらベッド使ってね。

ハル

いやぁ、悪いっすねぇ。
それじゃあ遠慮なく。

 慣れない三日間の旅は、ハルの身体をすっかり疲労漬けにしていた。ベッドに身体を預けたハルは、良い香りのする枕に気分を良くした。

 ~新章~     5、リユーマイトの夜

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