マギアフィラフト
~新章~

 遥か遠くの水平線。さざ波の音が心地よく聞こえてきている。照り付ける陽光は暖かい。快適な潮風の香りは、故郷を離れてきた事を実感させる。

 ハルが最初に目指す場所は、港町リユーマイト。ハルの故郷シーベルトと同じく、平和主義の王国・オーマイト王国領内の港町だ。南に見える海岸線に沿って東に行けば、迷わずに到着するらしい。

 村を出る時、村の者達から沢山餞別を渡された。何日も持つほどの干し肉やパン。驚いたのは、あれだけツケを残した酒場のオヤジだ。旅費の足しになるようにと、10000ガロン金貨を手渡してくれたのだ。はっきり言って足しになるどころか、普通の生活では絶対に使わない程の硬貨だ。「絶対に出世払いするっす」と、連呼していたハルの瞳は潤んでいた。
 家で飼っているジョージィ牛のペクンタに抱き付くハル。長い耳の裏側はフニフニしていて、触ってあげると「ノォ~ノォ~」と鳴いて喜ぶ。人間が言ったなら嫌がっている言葉に聞こえるが、超が付くほど気持ちよさそうな顔をするのだ。そのペクンタから取れた乳で作ったチーズと牛乳も荷物に加えた。

 ゴッツ爺からは、一振りの刀を渡された。
物置の奥から取り出されたその刀は、反りが浅めで、装飾は少ないが柄頭(ツカガシラ)に鬼の装飾がされている代物だった。ハルの父親であるジエンが昔に打った刀と告げられる。【鬼義理】(オニギリ)と銘が入れられたその刀を握りしめる。父親の事を話にしか聞かないハルは、嬉しくてたまらなかった。

ハル

死、死ぬぅ~。

 荷物を砂浜に引きずり、腹を抱えるハル。足取りは異常に重く、顔にも生気がない。

ハル

まじで、餓死するっすよぉ~。

 たくさんあった食糧も底をつき、ハルは空腹に身をよじらせていた。本来、リユーマイトまでは二日あれば十分つく。だがハルは、海で面白い生き物を発見したりすると、すぐに道草を食ったりして、三日目の昼になってもまだ町は見えてこないのだ。そしてあまり後先考えずに行動するので、食料を腹一杯食べてしまい、現在に至るわけだ。

ハル

もうだめっす。

 砂浜に荷物を投げ出しドサリと顔をうずめる。こんな所で旅が終わるのかと頭によぎる。水平線に船が浮かんでいるのが見えた後、ハルの意識は薄れていった。

 気が付くと夕暮れ時で、周りは大海原だった。ゆっくりと揺れるここは船の上という事に気付く。

はわわ……、生き返った。

 意識を取り戻したハルに気付いたのは、ハルと同じほどの年齢であろう女の子だった。ピンクを基調とした衣類に首元のリボン、髪を一つに纏めてポニーテールにしており、その顔立ちはまだ幼さが残っていた。

ハル

い、生きてるっす。

よかったぁ。
ホント死んじゃってると
思ったもん。

ハル

君が助けてくれたっすか?

漁師のお兄さん

そんな町娘が船までおめぇを
上げれるわけねぇだろ。

 声が聞こえた方を向くと、舵を取っている男がいた。

そうそう。
船から砂浜で倒れる人が
見えたから、漁師さんに
お願いしたの。

漁師のお兄さん

ったく、漁の途中だったのに、
余計な事を。ほっときゃいいのに
馬鹿みてぇに頼んできやがるから、
仕方なくだよ。

ハル

それはお世話になったっす。
感謝するっすよ~。

漁師のお兄さん

礼ならその小娘にいいな。
漁の手伝い賃いらねぇってんだから
俺は手ぇ貸したんだからな。

えへへ。
どうせお手伝いドジ
ばっかりだったから。

漁師のお兄さん

否定はしねぇ。
むしろ逆に気を
使ったぐらいだ。

 漁師の男は、思い出すだけで疲れたと言わんばかりの表情だ。

 

ハル

自分はハル=ビエントっす。
シーベルトから来たっすよ。

メナ

私はメナ。メナ=マリオン。
よろしくハル。

ハル

こちらこそよろしくっす、メナ。

 満面の笑みで挨拶する二人。
 漁師の男は、細い目を更に細めて、遠くを見ている。その視線の先に町が見えてきていた。ハルが最初に目指していた港町リユーマイトだ。

 ~新章~     4、回想と出会い

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