そして、話は黒髪の少年(以降、黒髪少年とする)と、幼い少年の母親に変わる。

 黒髪少年は、美人で若い女性に緊張して視線をあちらこちらへと動かしていた。そんな黒髪少年を安心させようと、女性自ら声をかける。

急に交換だなんてごめんなさいね。落ち着かないかしら

えっと、はい。うちのお母さんって、もっとおばさんだから。お母さんって言うか、綺麗なお姉さんって感じです。美人のお母さんがいて、息子さんが羨ましいです

うーん、どうかしら

 女性は、ため息をついた。この様子では、何か悩みがあるようだ。

羨ましいですよ? 優しくて親身的なお母さんって。うちのお母さんは、勉強しろ! じゃないと面倒見ないよ!! とか言うんですから

ふふ、良いお母さんじゃない

え、今までの話のどこに良さが……?

私は、君のお母さんが羨ましいな。私は、息子を叱ることが出来ないから

 女性は、天井を見上げた。

 女性は、生まれてからずっと裕福な家で暮らす、いわゆるお嬢様であった。

 お嬢様である彼女は、親の言いつけを守って様々な習い事をこなし、他人に気も配れる良い子へと育っていた。

 だが、それゆえに、幼少期より人の目を気にするようになっていた。

 他人から嫌われないように。そう思って先へ先へと考えると、他人から仲間外れにされるようなことは無くなっていた。

 しかし、優しすぎる彼女に、関わる人々は馬鹿にするようになっていた。彼女はそれに気づいていたが、嫌われることを過度に恐れ、それでも人々の顔を窺って過ごしていたのだと言う。

だからかしら。息子や旦那にも、小馬鹿にされることが多くてね。馬鹿みたい

……そうなんですか

だからね、叱ることって、本当は凄く怖いことなのよ。大切な我が子に嫌われることって、本当に辛いことなの

そう……なのかな

 黒髪少年は、自身の母親の姿を思い浮かべた。

 一方その頃、少女はおじいさんと女の子に、今までの経緯を説明していた。

 それを聞いたおじいさんは、「おやおや」と微笑む。

自力で好みの男を捕まえようとは、なかなかおマセちゃんじゃな

はい、やっぱり、この先仕事とかも経済的に重要だし、賢い方が良いよね! って思って!!

ほほ、そうかい。けど、人生頭が良いからと上手く行くわけでもないけれどな

それはそうと、聞いて下さいよおじいちゃん。この子、賢いけれど、賢すぎてお母さんをとても馬鹿にするんですよ。ちょっと叱ってやって下さい

だってパパだってママのこと……

おや。お父さんがそう言うのかい。でも、あまり良いことではないねぇ。そうじゃ、お嬢さん、確か賢い人と交換と言ってたか

はい! 出来ればイケメンで!!

 おじいさんは微笑んで頷くと、

待っておりなさい

と、少年を強引に引っ張り、女の子と共に去って行った。

 約十五分。少女が石ころを蹴飛ばして退屈そうに待っていると、目の前に一台の車が止まった。

待たせたね。お望みの天才じゃよ

 運転席からおじいさんが現れると、助手席から、背の高い青年が出てきた。目鼻立ちのくっきりとした、眼鏡をかけたいわゆる理系イケメン。少女にとって、どストライクな顔つきだった。

はじめまして。お嬢さん

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