あーっそぼ!

 おじいさんに強引に連れていかれた少年は、女の子と共に公園へと取り残されていた。

 女の子は幼き少年(以降、茶髪少年とする)の手を引き、ブランコへと案内する。同年代と言えども、賢さで言えばかなり劣る少女。彼女と遊びたくは無かったが、強くも言えず、仕方なく少年は付き合うことになった。

 ブランコに座ると、少女は楽しそうに漕ぐ。あまりにも楽しそうにブランコをする少女を見て、少年もブランコをしてみた。上手く漕げるようになると、これが結構楽しい。

あ、笑った!

そう?

 女の子の言葉に涼しい顔で返す茶髪少年。すると、女の子は途端に寂しげな顔をする。

私と遊ぶの、つまらない?

まぁ、僕はもっと楽しい遊びを知ってるからね。君がいなくても十分楽しめるんだ

……そっか

 女の子はブランコを足で揺らしながら、目をこすって泣き始める。女の子はいっつもこれだ。茶髪少年にとっては、幼稚園でよく見かける姿でしかない。

いつも泣いて済むと思わないでよね

こら、女の子をいじめるんじゃないの!

 女の子が泣いていると、それに気づいた女学生が此方へ寄って来た。女の子が顔を上げると、すぐにその人物が誰なのか気付いた。

おねえちゃん!

 女学生の正体を知り、バツの悪そうな顔をする茶髪少年。その察しは大当たり。女学生は茶髪少年を見ると、すぐさま距離を詰める。

どうして女の子をいじめたりするの

別に。僕は、一人で遊んでたって楽しいって言っただけだもん。同年代との遊びってつまらないんだ。ゲームしてる方がよっぽど楽しいよ

……寂しい子ね

そんなこと無いよ!

 寂しい子。女学生に言われた途端、茶髪少年は強がるように声を張り上げた。それに女の子が驚き、ビクッと体を震わせる。

そうなの? でも、私だったら寂しいな。ずっと一人って

そんなこと無いよ、先生は頭良いねって褒めてくれるし、ママだっていっつも僕と一緒に遊んでくれるんだ!!

おや、良いお母さんじゃないか

 男性を少女の下へ送って戻って来たおじいさんが、茶髪少年の下へと戻ってくる。年上に挟まれ、茶髪少年は更にバツの悪そうな顔をする。

お前さんが寂しくないように、何時も傍にいてくれて、しっかりお前さんの世話をし、遊びにも付き合ってくれる。そんなお母さんを、お父さんの真似をして馬鹿になんぞしちゃいけんぞ

で、でも、今までそうやって関わって来たから、どう接したらいいか分からないし……

 狼狽える茶髪少年。戸惑う彼の顔を見るや否や、おじいさんは微笑んで答えた。

なぁに、簡単だよ。お母さんにいつも有難うって言ってやるのさ

それと、男の子なら、お母さんを守ってあげないとね。たまにはお父さんにガツンと言ってやりなさい!!

……

でもまずは、この子に謝りなさい。この子を傷つけたのは事実なんだから

 女生徒に促され、茶髪少年はブランコに座ったまま、隣の女の子を見て言った。

……ごめん

ううん、大丈夫! 一緒に遊んでくれる?

え……う、うん

 茶髪少年が頷くと、女の子は嬉しそうに茶髪少年の手を引き、ジャングルジムへと走って行った。茶髪少年は戸惑いの表情を隠せなかったものの、次第に強張っていたその顔を笑顔へと変えていった。

 微笑ましそうに彼らの様子を見つめていた女生徒とおじいさんであったが、ハッと我に返った女生徒がおじいさんに尋ねる。

ところであの子、誰?

ううむ。そうだねぇ。強いて言うならば、可愛らしいお嬢さんのふぃあんせ候補、かね

 おじいさんはクスクスと笑っているが、女生徒には全く以て意味が分からない。首をかしげる女生徒に、おじいさんは事情を説明するのであった。

 所変わって、話は少女と新たな結婚候補の青年へ。今まで車道にいた二人だったが、折角の出会いと言うことで、本格的にカフェでお茶をすることとなったのだ。

お兄さんって、好きな物あるんですか?

僕かい? 僕は、オイラーの多面体定理と、ケーリー・ハミルトンの定理が好きだな

へ、へぇ……カフェに似合うお洒落な響きですねー!

そうそう、フェルマーの最終定理も好きでね。フェルマーの最終定理の他にフェルマーの定理って言うのもあってね。最終定理の方には、近しいものでオイラーの定理って言うのがあるんだ

エルマーの定理に、オイラの定理ですか……面白いですね

面白いかい!? そうだろうそうだろう? 実はフェルマーの最終定理なんだけどね、これが実に素晴らしいのには……

 面白いと言ったが最後。青年は堰を切ったかのように難しい単語を、難しい言葉遣いで話し出す。少女は苦笑いを浮かべ、その話を右から左へと聞き流すばかり。ついには救いを求めて、天を仰ぐ少女。その脳裏には、幼馴染の金髪少年を思い浮かべていた。

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