淳史

あ、先輩

昼休みの屋上
淳史は見慣れた背中に声をかける

慧人

ん?
あー、淳史か

前かがみに座っていた慧人はその丸めた背中をグーンと伸ばして、声のした方に振り向く
聞き間違えるはずのないイケボ、きっと女の子たちはこういう声の男子が好きなんだろうな(ただしイケメンに限る)
などのあれこれを考えるのであった

淳史

隣り、いいですか?

慧人

え、だめって言ったらどうする?

淳史

んー
桜花先輩に言いつけます

慧人

ぐげ
それはめんどくさいな

淳史

冗談ですよ

くすくすと笑いながら、淳史は慧人の隣に腰掛ける
慧人もまた。その淳史の行動を眺めながらため息をついた

慧人

お前、性格が悪いって言われたことない?

淳史

それは先輩も一緒でしょ?

慧人

あーも!
分かった降参…んで、何かあったのか?

淳史

いえ、先輩を弄り…失敬、話に来ただけです

慧人

いま弄るって聞こえいたけど?

淳史

そら耳です

淳史が入部して数カ月
淳史は同じ部の慧人に懐いていた、慧人もまた、淳史が懐いてくれていることが心地よく先輩風をふかしているところであった

淳史

ところで先輩
実際のところ先輩ってモテるんじゃないですか?

慧人

げっほごっほ
…は?正気?

淳史

正気ですよ?
先輩て浮いた話、結構あるじゃないですか。前だって女の子に告白されてるように見えましたけど

慧人

あーあれか

耳の後ろを掻きながら、慧人は嫌なことを思い出すように視線を浮遊させた
確かに先週の放課後、女子生徒に呼び出しをされたのは事実である。しかし、淳史が考えているような甘酸っぱい青春ドラマのワンシーンでも何でもないのであった

慧人

…桜花関係の伝言を聞かされていただけ

淳史

わざわざ二人っきりで?

慧人

まー深いことは内緒ってことで

その言葉の裏に悲しみの色が見えた
「何か隠してませんか」
なんて言ったところで同じようにはぐらかされるのは間違いない
でも、何故その女子生徒はわざわざ慧人に桜花の伝言を託したのだろうか。謎は深まるばかりであった

淳史

先輩って、桜花先輩一筋ですよね

慧人

そうだけど?

???
笑顔がぎこちない
「あれ、俺そんな話したかな」
と疑問になったけど、聞けない。絶対墓穴を掘ってしまう
今までの経験が慧人の中で忠告してくるのであった

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