王都は誰でも入ることができない。
検問を通った者だけが
入ることができる街だ。


が、

「いや、踏み入れたのはタイヤだろう」

というツッコミは
あえて無視させていただく。










あ、人だ

そりゃあ人くらいいるさ

……いや、そうじゃなくてね




……似てる


あたしが見つけた、

ジーニーに似たその人は




プラチナのような髪の女の子を
連れて歩いていた。


通りの人々が
そんな彼らに道をあけ、頭を下げる。





あたしが指さすほうに
目を向けたベンおじさんは

「ああ」

と小さく呟いた。

あっちの兄ちゃんは知らんが、隣の娘っ子は王女だぞ

あの兄ちゃん、王族に認められてる研究者なのかもしれん。
まぁ、簡単に言えば「偉い人」だな

……

お姫様が
お供らしいお供もつけずに
街中を普通に歩いてしまうなんて

住む人が制限されている街
だからできることなのだろうか。

ちょっと想像できない。



それだったら
おじさんの見間違いだとか
他人の空似だとか

都会の女は全部同じに見える

とか言われたほうが納得できる。






















だが、やっぱり王女様よりも

あたしには
その隣のほうが気になった。

ジーニーに、似てる

髪の色も目の色も全然違うけれど
どことなく雰囲気が似ている。





それは決して

あたしが田舎者だから
都会の男は全部同じに見える

というわけではなく!!


親戚かな?

似ている、というところには
賛同したのだろう。

ベンおじさんも頷いた。

















ジーニー(天才)の親戚なら
王族が認めるくらいの技術者をしていても
おかしくない。


王都に来てすぐに
知り合いっぽい人が見つかるなんて
これは
幸先がいいのかもしれない。



……いや、しかしそうなるとジーニーもお偉いさんだったりするのか?
ううむ……

おじさんはそんなふうに
唸っていたけれど。









そんな人じゃないことぐらい、アリスが1番わかっていることでしょう?












親戚は偉い人かもしれないが
ジーニーはジーニーだ。

このチャンスを逃すことはない。


こいつぁハナから縁起がいいぜ!

と浮かれるつもりはないが、
それに近い気分で
あたしはロザンナから飛び降りた。























































すみま、

では見つかったのですね。
よかった

ええ、まさかあんな辺境まで行っているとは

町の連中にすっかり馴染んでいましたよ


声をかけようとして
そのふたりの会話が耳に入った。



割り込みにくい雰囲気だったので
あたしは陰から
声をかける機会をうかがう。

……あのPRO-10が、ねぇ。
いくら記憶がなかったとはいえ、想像できませんわ

全くです


……記憶がない?

今は?

記憶の欠如も戻ったようです。
今はラボにいますよ

逃げ出した分、働いてもらわなければね


逃げ出した?

PRO-10……
ジーニーのこと?

ジーニーは
自分からすすんで王都に戻ったわけでは
ないのだろうか。



と言うか
その機械の型番のような名前が
ジーニーの本名なのだろうか。


愛称にしては可愛くない。

……


とりあえず
安易に声をかけるのは危険だ。






ピリピリと頭の奥で警鐘が鳴る。



危険予知の天才(自称)と言われた
あたしの勘がそう言っている。



















そうしている間に
ふたりは蛍光色に光るドアの向こうへ
消えてしまった。
















慌てて追いかけようとしたところで
後ろから腕を掴まれる。





見上げると

街に入る時に受付をしていた軍人と
同じような服装の人が
険しい顔で立っていた。

ここより先は特別区域だ。
一般市民は立ち入ることができない

許可証は?

あ、いえ、

……

ああっ! あたしはどうしてこんなところにいるの!?
わからない、なにもわからないっっ!!

マズい。

こういう時は
わからない、で押し通すに限る。











サラが言っていた。

捕まってしまったら判断能力が無いふりをするのよ。
そうすれば大抵の事案は情状酌量で無罪になるわ

弁護士がよく法廷で使うでしょ?
「判断能力が無いから罪に問えない」って

便利よね

……なにが便利なのかは
あえて問わなかったが。









……

とか言って、さてはリオルさんの追っかけだな?

ほら行った行った。
今日は備品や資材の搬入が多いんだから、追っかけや出待ちに構ってる暇はないんだよ

は、はい、すみませんでしたぁ~






サラの入れ知恵恐るべし。


だが、とりあえず
危機は脱したようだ。
















が。



別の方法で居場所を突き止めないといけなくなったわね……







(ひらめいた)

説明しようっ!
「猫が好きな魚(腐敗臭)」は
ジーニーのトンデモ発明のひとつ!

半径5km圏内の猫という猫を
おびき寄せるアイテムなのだ!

ふふふ。
これでクロを呼び寄せて、ジーニーのところまで連れて行ってもらうのよ!

あたしって頭いい!
(作ったのはジーニーだが)




















































ん?






ぎゃーー!!


結構いるじゃない!

誰よ
王都には猫が少ないって言ったの!!
(あたしです)

あ、クロ!


その大量の猫の群れの中に
クロを見つけた。

わかる。
だってあたしの飼い猫だもの!




だがクロは
魚の破片をくわえると

あたしとの再会に打ち震えるどころか
完全に無視の方向で
駆け出した。

そんなもの食べたらおなか壊すわよ!!
って、ちょっと待ちなさい!!

自分で持ってきておいて
それはないだろう。


なんて、ひとりでボケツッコミを
している場合じゃない。

クロ! クロ!
ディジー!!




















ディジー!!

(無視)

……

猫の分際で、長距離走の天才と言われたあたしの足をなめるんじゃないわ!!

















































……ここは






あたしは、
とある部屋に辿りついた。



にゃー


クロが
足下で一声鳴いた。











なな。

お気に入り(26)
facebook twitter
pagetop