この話の始まりは、お父様が戦火に巻き込まれる前、シーナが女王様として君臨する3ヶ月前に遡る。

シーナ

今日もつまらない、……お父様も遊んでくれないし

シーナは毎日世話役が決めた学習を終えた後、いつも一人で部屋にこもっていた。お父様は公務が多く遊んでくれない、お父様以外家族はいないのでもちろんのこと、外に出れないため友達もいないので、彼女としては普通のことなのかもしれない。

「つまらない」と言うようになったのはいつからだっただろうか。随分前からで、彼女はいつから毎日がつまらなくなったのかさえ分かっていない。

子どもの頃は一人で遊んでみたり、世話役が話し相手になってくれたりしたが、一定の年齢を超えてからは世話役は毎日の学習の時と、時々部屋に訪れてくる時以外会わなくなっていた。

数ヶ月前、「お洒落」というものに興味を持って、髪型や服装に力をいれてみたりもしていたが、それにももう飽きてしまった。

このように彼女は何かに興味を持っては飽きて、「つまらない」毎日を繰り返していた。

世話役

姫様、今日の学習は終えたからといって、そうやって部屋にこもるのは体に悪いですよ

このように心配して世話役は部屋に訪れてくるけれど、それも毎日数回、そしてその度部屋に滞在する時間も数分だけ。
体の心配をして、部屋の窓を開けてみたり体調を尋ねてきたりはするが……。

シーナ

いつもいつも貴方はそう言うけれど、一人で何しろって言うのよ!

シーナは世話役から毎日聞く同じ言葉にも飽き飽きしていた。何が「姫様の体のため」だ。それも貴方の仕事の一つなだけで、本当に心配しているわけじゃない。
彼女はいつも優しく接してくれていた世話役に対してまでそう思うようになっていた。

世話役

……そう、…ですね……、申し訳ありません

世話役は最近のシーナの姿を見て、とても申し訳なく思っている。彼女が大きくなった今、次代の王は彼女であり、それは世話役である自分の重責にもなっていた。
彼女が「女性」であるから、まだ先であっても、王になる時は何かと性別が付きまとってしまう。

王になる時、彼女を守りたい、彼女が王様として国民に認められるように育てたい、ただその一心で仕事に力を入れてきた、つもりだった。

それが彼女の日常生活を「つまらない」ものにしてしまっている一つの原因になっていることに気付いたのは、彼女が自分に対して声を荒げるようになってからだった。

世話役

……しかし、……外の空気も吸ってくださいね、…こもるのは体に良くありませんので

姫様のため。そのつもりが、彼女を苦しめていた。これまで声を荒げる彼女を見たことがなかった世話役は、自分の仕事は間違っていたのかと不安になるしかなかった。
そして、彼女にかける台詞はありきたりのものだけになってしまっていった。

シーナ

分かってるわよ、……何よ、…仕方ないでしょ

世話役が部屋から出た後、離れていく足音を聞きながらシーナは小さくため息をついて、「つまらない」のは仕方ないことと自分に言い聞かせていた。

???

……つまらない、ね…

そう言って彼は楽しそうに笑う。彼女の全てを見透かしているかのように。

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