…………

残ったグレーは三人。
この三人のうちの誰かを殺そう。
そうするべきだ。私が決めるんだ。

日和

ねえ……聞いていい?

……なに?

日和

一体、誰を殺すつもりなの?

グレーの残りの三人
そのうちの、誰か

私に異議を唱える人から殺すよ

日和

……そう……

残るグレーは三人。
卜部さん、上田さん、チンピラ。
もう内訳は分かっている。
狼、狐、そして村人。
狐はまだ、呪殺していないので健在。
狼と村人は言うまでもない。

…………

確率は、三分の二。
私にとっては、都合の良い確率。
攻めていける。
確率的には、当たりを引く方が低い。
まぁ、誰であろうと抵抗はさせない。
私が生殺与奪を決めるのだから。

……決めた。
この人を殺そう。

卜部さん

日和

な、なに……?

私が声をかけると竦み上がる卜部さん。
そう、やっぱり今の私は怖いんだ。
怖くていいよ。舐められるよりは余程いい。

死んで

日和

なっ!?

激情したのか、立ち上がる。
当然か……。誰だってそう言われれば怒る。
だからどうした。

いいから、死ね

重ねて言う。死ね。
死んでよ。どうせ傍観者でしか居なかったくせに。
居てもいなくてもいい奴は、死んでよ。

日和

巫山戯ないでッ!
何であたしがっ!

グレーだから
それ以外ないでしょ

生きていても居なくても変わらないわ
いいから死んでよ
傍観者気取りの不適合者

居てもいなくてもいい。
この人は邪魔になる。だから殺す。
それだけでいいのだ。
理由なんてそれだけあれば十分。

日和

このッ……!

村人、とでも言うつもり?
いいえそれは有り得ないわ
村人は傍観していれば殺される
無実なら私に味方するハズでしょ違う?

日和

っ!!

馬鹿な人。
トチ狂って無差別に殺すとでも思ったか。
建前だってちゃんと用意している。
この反応じゃあ、もしかして狐?

私は無条件で村人の味方
なのに貴方は傍観していた
眺めていただけ

そう。
この人はずっと第三者の立場。
客観でしかなかった。
何の手伝いもせず、流れに身を任せて、フラフラしていただけ。
そんな人間を、村人だと誰が信じるだろう?

ねえ、貴方馬鹿なの?
村人は一人確実に分かっているのよ?
そして一人は死んでいる
私は村人だと、死ぬ人間がこの状況で言わない訳がない

言い逃れならもっと利口な言い分を用意してよね

見苦しい真似しないで死になさいよ

日和

うっ……!

反論できまい。
私は真占い師。
本物である私が選び、追放する立場。
それに抵抗するは、偽物だという証。
このゲームで話し合いを進める第一線に立っている。

みんな、こいつを殺しましょ

陽菜

うん……分かったよ、逆井さん
あたしは猛進するって決めたし
その判断に従うよ

恵介

仕方ねえわな……

桃子

……

信一郎

了解したよ、逆井

あ、あぁ……

これでいいよ。
グレーはひとり減った。
先ずは傍観者、お前を殺す。

皆、投票を終えた。
卜部さんは私に入れた。
結果は決まった。
あとは時間内に息の根を止めるだけ。

狼じゃないわね、卜部さん
貴方はきっと狐でしょう

日和

……どうしてそう思うのよ?

狼ならもう少し利口に動くわ
卜部さんはただ単に眺めていただけ
狐の方が余程合致が行く
漁夫の利が狐の勝利だから

何もしなかった貴方に生きる資格はない
だから判決を言い渡すわ

死刑よ

眺めるだけの役職はない。
それぞれ必死になる。
だが狐は裏を返せば目立たないようにしてさえいればいい。
最後まで生きていれば自動勝利。
自滅を狙うも良し、生きているだけでも良し。
ある種、気が楽と言えば楽だ。
この場合は、きっと狐だろう。
お菓子の人が言っていた弱者じゃあないはずだ。
そんな奴ならもっと抵抗する。
こんな諦めに近い感情は見せない。

女狐、とはよく言ったものね
まあ黙っていただけだけど

結果は決まった。
あとは誰が殺すかだ。
誰の手を真っ赤に染めるかだ。
……私しかいない。私が殺せと命じたんだ。
なら、いっそ私が殺してしまえばいい。
駄狐はその口ごと閉じてもらおう。
私も立ち上がって、木箱をあさる。
適当に幾つかを見繕って用意した。

日和

……そぅ、あたしは死ぬのね

えぇ、死ぬの
私が今から殺してあげる
罪深い妖狐に生きる権利はないわ

日和

あたしの価値を勝手に決めないで
いいわよ、死ねって言うなら死ぬわ
でもそれはあんたに殺される理由にはならないでしょ

卜部さんは死ぬことを認めた。
否定しない、ということはやはり狐。
やる気のない狐なら、死んでもいい。

ゲーム外の事は何も言わないわ
でもゲーの中は話が別
生きる死ぬを決めるのが占い師の役目よ

日和

まるで神様ね
随分と大きく出るじゃない

村人が生きるためなら神様みたいなことだってしないといけないのよ
乗っ取りに来ているだけの薄汚く浅ましいケダモノにはわからないでしょうけど

日和

減らず口を……ッ!

いいよ?
やろうって言うなら
私が勝ったんだ
死人は黙って死んじゃえ!

私が正しいんだ。
この女が死ぬことが正しい。
早く死ね!

へぇ……
死ぬって言っときながら抵抗するんだ?

日和

あんたに殺されるのだけはごめんよ!

私はおいて置いたレンチで殴りかかった。
それを、回避して逃げる狐。
呪殺するのが占い師の仕事。
ケダモノを駆逐するのも仕事の一つだ。

逃げ回るだけ時間の無駄よ
それとも共倒れが狙いかしら?

日和

……

時間を満たせないと私達も死ぬ。
共倒れが目的なのだろう。
浅ましい。そんなことを許す連中ではない。

陽菜

そんなことさせないっ!

長い木刀を構えて、神田さんも助けてくれた。
他のメンツはどいている。

日和

あんたも逆井の味方だったわね……
殺れるもんなら殺してみなさいよ!

恵介

俺も根暗に手ェ貸してるんだがな!

日和

ッぶな!?

恵介

今の身のこなし……
テメェ、なんか武術やってんな!?

チンピラも参戦。
不意打ちで殴りかかるが、凄まじい反射速度でそれを回避。
成程、武術経験者か。
なら方法を変えよう。

ふんっ……

慣れていないけど、こうすればいい。
皆で手を合わせれば、殺せる。

桃子

……

板垣さんはあてにならない。
上田さんはそもそも知ったことじゃない。
やっぱり私が殺すのが一番いい。

陽菜

とうっ!

日和

なんのこれしき!

振るった木刀を白刃取りされた神田さん。
そのまま大きく振り回されてしまう。

陽菜

ううううわああああああっ!?

日和

おりゃあ!

室内に放り投げられて沈黙した。
私は準備に手間取って助けられない。
ごめん、神田さん!

恵介

オゥルァッ!

日和

ふんっ!

恵介

チッ……!
妙に洗練された動きしやがるッ!

日和

群れるしかしないチンピラがッ……!
あたしが負けるわけないのよ!

チンピラが振るった拳も受け止めて、殴り返す。
鳩尾にめり込んで、チンピラが怯んだ。

信一郎

違うよ、逆井
安全装置はそうやって外すんじゃない

なに?
邪魔しないでよ

信一郎

貸してくれ、そのマグナム
僕が外して弾を装填する
ちょっと待ってて欲しい
すぐに準備しよう
僕は君を信じている
任せてくれたまえ

私が手間取っているのを見て助けてくれるようだ。
イマイチ信用できない人だけど……。

…………

撃ったら、殺すからね

念を入れて、脅す。
一応信用することにした。
今は時間がない。

信一郎

撃つなんてことはしないさ
味方だろう? 覚醒した占い師
僕も君のように覚悟は決めている

信一郎

君が勝つために手段を問わないというなら
僕は君の背中を守る霊能者だ
人殺しの罪を共に背負おう

信一郎

生きよう、逆井
人殺しになってでも

彼はそういうと凄い速さで銃を整備する。
安全装置を外して、弾を装填して、それを私に手渡した。
その所要時間、わずか15秒程。
銃に慣れない日本人とは思えない手際の良さ。

信一郎

昔、父さんの仕事の関係で、アメリカに住んでいたことがあってね
僕はその時に射撃訓練を積んでいる
動く的を当てるのは素人じゃ無理だ
撃つなら僕がやるよ、逆井

どこの名探偵だこの人。
ハワイで何かしていたのだろうか。
それは兎も角、確かに素人じゃ直撃は無理だ。
だが……。

動いていないなら、いいんでしょ?

私は銃を片手に、暴れている二人に向かう。
二人して取っ組み合いになっており、二人がかりで狐を拘束している。

日和

くっ……!!
このっ、離しなさいよッ!

陽菜

お断りだよッ!

恵介

誰が離すかクソ女ァッ!

二人が痛い思いしてまで、作ってくれたチャンス。
使わなければ占い師じゃない。

見苦しいんだよ、何時までも……

床に倒れている狐の腹に踵をぶち込む。
二人が四肢を押さえているおかげで楽ができた。
感謝しないとね、二人には。

日和

ぐふっ!?

手間取らせないでよね……
はい死ね

追放完了
ありがとう、二人とも

動けない狐の頭を一発、ぶち抜いた。
衝撃で銃が手から離れて、飛んでいってしまった。
挙句には顔や服に返り血を浴びた。
撃つ前に二人は撤退していたから無事だった。
血腥い。肩も凄く痛い。
素人がこんなことするから、痛めたようだった。
でもいいよ。殺せればそれでいい。

陽菜

逆井さん、肩!
どうしたのそれ!?

銃の反動で脱臼したかな……?
まあ、いいよ
後で何とかする

肩関節が外れたらしい。
激痛がするが、何というか虚無感に支配されている私には大した問題じゃない。
……いいよ、このぐらい。
痛みは、生きている証。
また私は勝ち残されたんだから。
今日も生き残ることが、出来たから……。

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