やめて……私は……!

夢を見ていた。

黒い泥の中に沈んでいく夢。
底無しに飲み込まれる悪夢。

私は、何も悪くないの。
私は罪なんて犯していないの。

やめて。
私を責めるのをやめて。
私は悪くない。
悪くないんだ。

生きるためには仕方ないじゃない。
他にどんな方法があるのよ。
だったら、教えてよ。

それもしないで死んだくせに私のせいにしないでよ。
私は言われたとおりにしているだけだもの。
やれと言われたら、従うしかない立場なんだもの。

私もあなたも勝手なのは同じじゃない!

私だってあなただって立場は変わらないわ!
死にたくないから必死になって、あなたは負けた。
私は勝った。勝負っていうのはそういうもの。
負けてから勝った私に文句を言わないで!!

負けたくせに!! 
死んだくせに!!
負ける方がいけないんでしょ!
死ぬほうが悪いんでしょう!!

私は……勝っただけよ!
勝ったから生きる、負ければ死ぬ!
同じ条件でしょう!?

勝利した私の当然の権利よ!!
生きた私が勝者なの!!
敗者の死人は黙ってて!

そうだ。
私は……勝ち続けているんだ。
勝手じゃない。勝って。
勝手じゃないもの。勝っているんだ。

生きる私の当然の権利。
このゲームで勝てばいい。
ルールに従い勝てばいいんだ。
死人に口なしって言う。
死人は、何も言わない。
この声は、幻だ。
私の罪悪感と後悔の塊。

この声は……私の作り出した幻聴……

だったら……!!

泥の中で足掻く私は、答えを見つけた。
この泥は可視化された罪悪感。
この夢は私の中の良心の呵責。

なら、振り払うのは簡単だ。
私が……割り切ればいい。
私は、悪くない。
そうだ。私は、悪くないんだ。

煩いッ!!

私は叫んだ。
耳に木霊する怨嗟の声。
それに向かって、堂々とした態度で言い返す。
私に足りなかったのは……『覚悟』。
みんなを踏み躙ってまで生き残る覚悟。
いいじゃん、他の人間なんて。自分が生きていれば。
それだけのシンプルな答え。
なのに、余計な考えがこびり着いていた。
もっと単純化しよう。私は生きる。
だって勝っているから。
勝っているから生きてていい。
負けた連中は死ぬんだ。
負けているから、死ねばいいんだ。
それがルールだ。弱者は私の贄になればいい。
私が負ければ誰かに贄になるように、公平だ。
奴らはそうならなければいけない。負けたのだから。

負けたくせにうるさいな
ルールに従って私の代わりに死んでよ

負けるからいけないんでしょう?
生きたいなら勝つしかないのに
負けたのはそっちのせいじゃん
私は勝ったから生きてるだけなの
それがこのゲームの全てでしょうに

私、生きる。
あいつら、死ぬ。

それだけだ。うん、それだけだ。
もういいや。ウジウジするのやめる。
私は生きる。何度でも言える。
私は、勝っている。勝てば正義。
生きるのは私だ。死人は黙っていろ。

もういいよ、全員死んでて
私の知ったことじゃないから

死人のことなんて知るか。
もうどうでもいい。

私はただ、生きるんだ。

んぐっ……?

――妙な夢を見た気がする。
どうでもいいか……。
朝、目から血を流して私は気を失ったんだ。
目から血か。
もしかしたら病気になったかもしれない。
今じゃどうしようもないけど。

陽菜

あっ……逆井さん!

……

神田さんが私を心配そうに見ていた。
看病してくれたのだろうか。だとしたら有難い。
彼女は私と同じ生きていい……生きる権利のある人。
互いに、私たちは生きていい。
私は大丈夫と首肯すると、私を心配そうに見る彼らに告げる。
役目を果たさないといけない。

遅れてごめんなさい
昨晩占ったのは板垣さん
結果は白、狼じゃない
ついでに狐でもないから放置でいいよ

今日は占っていないグレーを殺す
それは私が決めるわ

はっきり告げる。
私は生きていていいんだ。
私は勝利者。生きる権利がある。
このゲームに勝っている数少ない人間だ。
そして私が占った人は生き残ることを許される。
つまり、出たくないとかなんとかなどと言う時ではない。
私が、率先して敗者を定めて殺していく。
そうすることが、私の生きる方法。

信一郎

……逆井
目付きが全然違うね?

車屋さん、私の邪魔をしないで
邪魔するとあなたも殺すよ

彼はまだ暫定に過ぎない。
いつ、私に牙を向くか分からないのだ。
油断はしない。そして、信頼もしない。

信一郎

キミ……目がヤバイよ
何があったんだい?

聞こえないの?

邪魔するなら、グレーは皆殺しだ。
最早知るか。
村人だろうが狩人だろうが狼だろうが。
グレーを潰せば手間が省ける。
自滅だろうが何だろうが勝てばいいんだ。
勝ち続ければいいんだ。それが私の出した答え。

自称霊能者は黙れって言ってるのよ
結果は伝え終わってるのよね?
なら、引っ込んでいなさい

あなたは仕事さえしていればいい

信一郎

…………
ひとつだけ聞こうか

この人、黙れっていうのに黙らないの?
じゃあ死んでもらってもいいけれど。
疑問があるなら答えてあげようか。

信一郎

『答え』が出たのか?

出たけど?

一言だった。
答えは、私なりに出た。
だから、そう言う。
彼は納得したように片目を閉じて笑う。

信一郎

……そうか
なら、話し合いの主軸を君に任せよう
自分で得た情報以外は信じない気だろ?

信一郎

僕は君が本物だと分かっているからね
君が望む結果を進めていこう

それでいいのよ、自称霊能者
昼間の議論は私が方向性を決めるのだから

私は本物だ。
それは誰が何を言おうと疑いようがない。
ならば、私がどうしようと関係ない。
怪しきは殺せ。それが勝つ方法だ。

陽菜

そっか……
方向性は決まったね
あたしは逆井さんを信じるよ

桃子

逆井さん……雰囲気が違う……

うるさい。私の言うことにケチをつけるな。
私がそうだというならそうなんだ。いいから従え。
睨みつけると、板垣さんは目を逸らした。

信一郎

狼には厄介な人間を覚醒させてしまったようだ

…………

恵介

やっぱ俺の見立てに狂いはなかったぜ
クソ度胸の持ち主だったな

日和

…………

私は占い師。
グレーは私には刃向かえない。
いいから死ね。
負けたやつが喚くな。
私が勝って、生き残るんだ!!

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