チカ

さー!お昼だ!!おっひる~!!

中庭、でしたっけ?

りお

うん、中庭行こう!

皆でお弁当を持ち、中庭へ移動する。
中庭は校長先生の趣味でちょっとした花畑のよう。
その端っこにあるベンチでお弁当を広げる。

わ!渚ちゃんのお弁当おいしそう!!

チカ

しかもすごくおしゃれ!

母が料理教室をやっているので、こういうのにはすごく凝り性なんです

そんな話をしながらお弁当を食べ進めていくと、如雨露を持った校長先生が現れた。

あらあら、楽しそうね

チカ

校長先生、こんにちは

こんにちは。…あら、あなたは?

今日転校してきた椎葉渚です

ああ、そうだったわね、ごめんなさい
この年になると物忘れがひどくて、ふふ
…こちらの子は?

りお

私、ですか?

先生の視線は渚ではなく、私に向けられた。
何度か話もしていたけれど、先生の記憶に薄いのだろうか…そう思い、私も改めて自己紹介をする。

りお

2年A組の浅香りおです

浅香…りお…さん?

りお

え、あの、はい?

先生は不思議そうな顔で私を見つめる。
一緒にお弁当を食べていた皆も私と先生を交互に見つめていたけれど、先生は小さく頭を振ってニコリと笑う。

ごめんね、私の勘違いだったわ
それじゃあお昼楽しんでね

りお

なんだったんだろう。勘違い、なら良いけれど。
妙な違和感を感じながら先生を見送り、お弁当を食べ終える。
チカの提案で残りの時間は中庭を回ることに。

チカ

さっきの校長の趣味で、お花が沢山あるから見ていて飽きないよね

そうですね、本当に沢山咲いていて綺麗。
……あ。

何かを見つけた渚ちゃんはそれに近寄り、手を伸ばす。
それは真っ赤な薔薇。

りお

あ、咲いたんだ。綺麗。
渚ちゃんは薔薇好きなの?

はい、この色が特に好きですね。
まるで、血のような……

りお

え?

あ、いえ、なんでもないです。

渚ちゃんの呟きは小さくて、微かに血のようだと聞こえた気がするけど、聞き間違いだったのかな。

遠くで昼休みの終了を告げる予鈴が聞こえた。
ベンチに置いてあるそれぞれのお弁当箱を持って教室へ戻ることになった。

・・・・・・・・・

茂みから校長がこちらを見ているなんて、誰も気付かないまま。

pagetop