ドアを開けた先に立っていた芹羽がいつもとは違う消えそうな声で悟に話しかける。
悟……
ドアを開けた先に立っていた芹羽がいつもとは違う消えそうな声で悟に話しかける。
悟がそんなこと考えてるなんて知らなかったの……
知らなかった?
覚えてなかったの間違いだろ?
芹羽は二の句が継げなかった。
実際、芹羽はその出来事を覚えていなかった。
むしろ、悟が幼稚園の頃は変化に敏感で合ったことすら記憶の隅に追いやられていたのだ。
虚をつかれたような反応を悟は見逃さなかった。
見逃すような人間じゃ無かった
ま、覚えてるはずないよな。
傷を受けた側は一生消えない。
与えた側はすぐに消えてしまう。
悟の言葉が芹羽にのしかかる。
俯く芹羽に悟は声をかける。
でも、もう気にしなくていい
気にされたところで、戻るものではないしな。
悟……
でも……
もういいだろ
話は終わりだ
芹羽の横を通り悟は階段を下る。
悟。
階段の踊り場には灼が立っていた。
どうしたの?
何も分かりませんみたいな表情はいらないよ。
全部聞いてたから。
灼の言葉に悟の表情が険しくなる。
何が言いたいの?
悟がどんなことを考えてるかよくわかった。
でも言うよ
私はあなたがどんなことを言っても拒絶しない。
悟が無理しないで入れる相手でありたいの
灼は悟をまっすぐに見据えて言った。
悟は静かに下を向く。
灼は悟に歩みより手を握った。
気が付けばその場には芹羽、浩太、静の三人も集まっていた。
……
こんなに髪を短くしても気がつかれないなんて……
私は寂しいよ……
悟にもっと見てほしい……
私のことを……
受け取り方によってはかなり情熱的な言葉を投げかける。
それでも悟は口を閉ざす。
何も語らず。
何も動かず。
まだ私の気持ちが分からない?
いや、分かるよ……
痛いほど……
灼の呼びかけに悟はようやく応じた
でもな、怖いものは怖いんだ
もしかしたら灼を失うことになるかもしれない。
そうなったらどうしようって
そう思うと……
悟の声が少しずつ小さくなる
しかし、言葉一つに込められた強さ、重さは徐々に大きくなっていく。
悟の言葉を静かに聞いていた灼は、何かを決断したように息を吸い込んだ。