浩太

待てよ!

浩太は悟を追って屋上まで来ていた。
悟はフェンスのそばに立ち、まっすぐに地面を見据えていた。

浩太

バカなこと考えてねぇよな?

そんなわけないだろ

悟は自嘲気味に笑いながら浩太のほうに向きなおる。

浩太

単刀直入に聞く。
お前、芹羽と何があったんだ?

浩太は悟に問いかける。
ひねりも、ごまかしも、一切ない
直球勝負の質問だった。

くだらないことだよ。
お前からすればな

そういって悟は自らの過去を打ち明け始めた。

俺は昔から物事の変化に敏感だった。
誰も気がつかないようなことにも気が付いた。
間違い探しの達人のような気分で、自分の長所だと思ってた。

でもな、ある時に芹羽に言われたんだよ。
『そんなにいろんなことが分かるなんて変だね』って

浩太はその様子を黙って聞き続けていた。
悟はそのまま語り続ける。

ショックだったよ。
その時に思ったんだ。
気が付きすぎることはいけないことなんじゃないかってね

浩太

それでお前は気がつくことをやめたのか

そう
本当は気がついていたよ
なにもかもね

悟は言葉を区切った。
いろいろ心の中で渦巻くものがあるのだろう。
言葉を選びながら――というよりは探しながら自らの心境を吐露していく。

もちろん、芹羽に悪意があったかどうかなんてわからない。
いや、たぶんなかっただろうな。
でも、俺はそれが心に残った

もう戻れないんだよ……

あきらめたような、何かを察したような……
悟の目はそのような目をしていた。

浩太

でも、芹羽と灼は違うだろ
あれだけ気がついてくれって言ってんだ。分かるだろ?

俺にとってはどんな変化も同じ『変化』なんだ。
灼のネクタイの結ぶ位置が昨日と1cm違うのも、髪を15㎝以上切ったのも同じ『変化』なんだ。

浩太

どこまでが許容範囲か分からないってことか

そうだ。
だから俺は今後も鈍感であり続ける。

そういって悟は屋上の出入り口に歩みを進め、ドアノブに手をかけた。
悟はドアノブに手を置いたまま口を開く

盗み聞きは悪趣味じゃないのか?芹羽

そういって悟がドアを開けるとその奥には芹羽が申し訳なさそうに立っていた。

第8話:ボーイズトークの後に

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