時計の針が18時を指す頃、この場所が戦場と化す。
車内にある安寧の地を求めて戦うのであった。
そして、この話はその戦士の物語。

通勤ラッシュも嫌だけど、
帰宅ラッシュもねぇ~

せめて帰る時ぐらいは、
ゆっくり座って帰りたいよ。

わざわざ座る為に、
帰宅時間も変えたくないしねぇ~
今日こそは、座るわ!

シュ~

ドアが開いた瞬間に、整列していた人達が一斉に
車内に駆け込んでいった。
座席はあっと言う間に埋まってしまった。
そして、2人の戦士達はというと・・・。

今日はオアシスに辿り着けたよ。
キミは残念だったね。
明日は座れるといいね。

悔しいな~
あと少しで、座れたのになぁ~
明日は負けないんだからね。

明日も座って帰るからさぁ。
負けないからねぇ。

ー次の日ー

今日も戦場前には、戦士達が整列して並んでいる。
ドアが開かれる瞬間を、息を潜めて待っている。

シュ~

今日も車内に人が駆け込んでいく。
そして昨日いた戦士はというと、
その流れに押し返されて、
オアシスに辿り着く事はもうあきらめていた。

あれ?
席が空いている!
誰も座らないみたいだから・・・。

何故か一人分だけ空いていた席に座ると
今日もオアシスに辿り着いた安堵に浸っていた。

不思議な事もあるなぁ~
これだけ、人が立っているのに
この席に座らないなんて・・・。

そんな事を考えているうちに、
いつのまにか眠りについていた。

ここは、どこだろうか?
電車に乗っていた筈なんだけど・・・。

視線の先に見えるのは、
いまにも崩れそうな建物ばかり。
視線を空に向けても、
雲ひとつない闇が広がるばかり。
そんな中、僕は立っていた。

変わらない景色の中で、
どれくらいの時間が過ぎたのかも分からない
そんなある時のことである。

遠くから足音が聞こえてくる。
この空間で一人きりの僕にとって、
救いの足音に聞こえた。

近づいてくる足音の方角に向かって
僕は話しかけてみた。

どなたか存じませんが、
お話ししませんか?

返事は返ってこなかったが、
足音はこちらに向かっている。
きっと、声が届かなかったのだろうと思い
もう一度話しかけてみた。

どなたか存じませんが、
お話ししませんか?

またもや返事は返ってこなかった。
しかし足音は次第に近づいてきている。
そして、人影らしいものが僕の視界に映り込んだ。
僕は少し安堵した。
そしてもう一度話かけてみた。

あの~

初めははっきりしない人影であったが、
距離が縮まるにつれて女性であることが分かった。
そして、女性もこちらに気付いたらしく
こちらをチラッと見た。
そして、ゆっくりと近づいてくる。

あの~
ここが何処だか分からないのですが
何か知りませんか?

ここは見ての通りで、
荒れ果てた街です。
何もありませんよ。

そうですか。
駅に行きたいのですが、
どちらに向かったら良いでしょうか?

逝きたいのですね?

ご迷惑でなけれは、案内してほしいです。
どこに向かって行けば良いのか、
検討もつかなくて困ってます。

分かりました。
私についてきて下さい。

女性は、先程歩いてきた道に向かって
歩みを進めるのであった。
振返り際に女性が微笑んだ気がしたのだが
今は気にしていられない。
なぜなら、この薄気味悪い空間から
一刻も早く抜け出したいからである。

それ以降、
女性と会話する事も無く、
歩き始めて30分が経過したころ
女性が急にこちらを振り返った。

つきましたよ。

僕は疑問に感じた!
あたり一面何も無い場所に着いただけだから。
彼女にどういう事か尋ねようとしたのだが
彼女は何処にもに居なかった。

何も無い場所、
薄気味悪い空間、
居なくなった彼女。

僕はその場に留まるのが怖くなり
逃げるようにその場を離れた。

足元に違和感があり、
足を止めて足元に視線をやると
足元には無数の骸があった。

落ち着いて、付近を見渡すと
あたり一面が骸畑(むくろばたけ)であった。

そして僕は理解したんだ。
生きていた世界とは違う、別の世界に
歩みを進めてしまったんだと言う事に・・・。

少しだけ、時間を遡ってみよう。
僕は開いている席に座った。
ただそれだけだったのだが、
僕が座っている筈の席に僕の姿は存在しなかった。

きっと、誰も座らなかったのは
異世界への入り口だと直感的に感じて
避けていたのであろう。

そこのあなた!
そこの席、空いていますよ。
長旅で疲れるでしょうから、
座った方が良いですよ。

ハハハ

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