全裸で眠るサクゾウ！
往年に比べればやや弛んだものの
なお見事な均整ある肉体！
詳細をお伝えできぬ行為ゆえ疲れ果て
ショタスキー邸で無防備に眠っていた！
ZZZZZ……
全裸で眠るサクゾウ！
往年に比べればやや弛んだものの
なお見事な均整ある肉体！
詳細をお伝えできぬ行為ゆえ疲れ果て
ショタスキー邸で無防備に眠っていた！
ハラショー！
鎖で拘束されたショタスキー！
これ幸いとばかりにもがき
苦労して
ついに！ 拘束を脱した！
もはや覆いかぶさられることはない！
ニェート……まったく今日はひどい目に遭いました……！
かくなれば男児概念に触れて魂の保養！
かのプールへとポイデュム！ ああッ男児！
ひるむな、ヴァラープリンス！
攻めるんだ！
たかが一打を何するものぞ！
ヴァラープリンスは進行方向を微調整！
加速！ フロントでの打撃にかかる！
その意気だ！ ブラススクイド！
……よし。焦るなよ、ソピアプシュケー。
3、2、1、――
ヴァラープリンス！ ブラススクイド！
勇壮なる貴公子が青銅の烏賊に衝突！
戦の華が開くであろうその瞬間！
――撃て！
ソピアプシュケーの狙撃！
ビー玉は二者の戦う浮島の側面
正方形を形作る辺の端を正確に撃った！
浮島は横回転を始める！
うわ！？
！？ バランスが！
このまま水に落ちちゃえよ！
ソピアプシュケーはさらに浮島を撃つ！
横回転加速！ バランス保持困難！
射撃で回転を加速させようと思えば
非常に正確な射撃が求められる！
わずかでもずれた場所を撃てば
むしろ回転を止めることになろう！
だが回転は加速していくばかり！
げに見事なりソピアプシュケー！
その優れたる狙撃の技前に誉あれ！
他の島へ移れ！ ヴァラープリンス！
跳躍機構作動！
ヴァラープリンスは水没を免れた！
くっそぉ！
立ち上がれブラススクイド！
ああ！
ブラススクイドよ！ 如何せるや！？
よもや先ほどの一打にて浮かれたか！
ブラススクイドは浮島の上で横倒し！
全球タイヤは地を離れ！
触手をうごめかし！
触腕をのたうたすばかり！
もはや駆動は叶わざり！
あな！ げにうたてなる様かな！
変わった形が災いしたね、カケト。
ブラススクイドは
超実験的ヨロイビートル！
全球タイヤはドラゴヒスイに同じ！
だが！ ブラススクイドは一歩進み！
車両の形についての通念へ挑戦した！
くそっ、水辺だからイカなら強いと思ったのに……！
一般に
地球人類文明の車両は前後に長く
全長よりも
全高が勝ることはほとんどない！
全高が高すぎれば
空気抵抗ゆえ速度が出ず
また横転の危険が高まるゆえ
合理的でない！
一輪車は
四輪車よりはるかに不安定なのだ！
だが！
ブラススクイドはこの通念に抗った！
神々に挑むがごとく
頭部を天に向け直立！
円筒形の体の底に
ただ一つの全球タイヤを備え！
もって自らの常の構えとしたのである！
素朴な考えだなあ。
挑戦はすばらしい！
果敢な戦に
人は拍手を送ってやまぬもの！
だが、通念には
通念たるだけの理由があるのだ！
通念を無視せんとした報いゆえ
ブラススクイドは横たわる！
こはブラススクイドの罪なりしや！？
否！
トイは無原罪なり！
然らばトイファイターの罪？
重ねて否！
カケトの戦ぶりは尋常なり！
では設計者の罪なるか？
三度の否！
サクゾウは夢に従ったのみ！
何者の罪にもあらじ！
こは大いなるものの御謀り事なり！
読者諸卿も心せよ！
哲学とても考慮し得ざる
大いなるもののあることを！
ま、君らしいと思うけどね。
さて、トドメだ！
ソピアプシュケーの狙撃！
地に倒れふす敗兵に回避の術はない！
ブラススクイドへ命中！
ビー玉の勢いそのままに！
水へ落ちんと転がりゆく！
うわぁーっ！
ブラススクイドーっ！
カケトの悲鳴！
ああ！ ブラススクイドよ！
もはや安らかに眠るがいい！
主の叫びこそが汝へのレクイエムだ！
否！ 否！ 否！
青銅の烏賊は！
大いなるものの眷属は！
まだ役目を残している！
死に際しての切り札を！
ん！？
チッ……！
ブラススクイドの
リーサルギミック作動！
背面より蝙蝠のごとき羽が開かれる！
側面からは恐ろし気な鉤爪を持つ腕が！
およそイカにあるはずもない器官！
だが奇妙にも調和ある諸器官が！
いとも禍禍しく冒涜的に展開された！
腕の展開の勢いにより横転から復帰！
詩と夢にたゆたひしブラススクイド！
いと呪わしく直立せり！
やっ、た……？
てか、なんか、キモい……
…………
カタリは浮島を飛び渡り！
ソピアプシュケーに射撃を命ずる！
ビー玉は当たらなかった。
蝙蝠の翼で浮遊する
ブラススクイドに近づくも
不意に
重力か何らかの力を受けて急速落下。
水底へ冷たく沈んでいった。
…………
カタリはカケトの背後を取る！
赤褌のヒモを掴み、一気に引く！
わっ、バカ！ 何を！
カケトの抵抗は既にむなし！
赤褌ぞ解きほどかれける！
小三男児の稚き男根！
晴天の下に顕わなり！
あ。
ハラショー！
あはは。
残念だったね、カケト。
Sie verlieren!
あなたはここで失格よ、カケト♡ 御ちんちん出ちゃったものね、ふふ♡
くっ、そおおおおおっ！
こんなのってありかよーっ！
カケトは褌を締めるのは初めてかな？
ほどけそうなのが、ずっと気になっていたよ。いずれ機会があれば、僕がちゃんとした締め方を教えてあげよう。
が、今はまず君のトイを回収してくれ。トイファイトが済んでまで、あのようなものを世に憚らせておくことはない。
あ、ああ。
ブラススクイド！ 戻ってこい！ 俺たちは負けちゃったんだ……
ブラススクイドは戻らない。
カケトの声など
聞こえていないかのように。
あるいは
別の何かに聞き入るように。
あれ？ おかしいな。
おーい、ブラススクイドー
すわ！ その時！
プールサイドに箱馬車が現れる！
やった……。
地、球か……？ ここは……？
！
マーヤは箱馬車より降り立った！
ノートと思しきA4サイズの本を開く！
こはスケッチブックなりや？ 否！
表紙には『frei Notizbuch』との文字！
これは自由帳だ！
ああ！ こはいかなこと！？
開かれたページより！
線路が生え！ 空中へと伸び行く！
お行きなさい、メーデルアイゼン！
線路！ そう、ポリレールだ！
マーヤの命にて駆けるは
メーデルアイゼン！
ゲルマニア風ロリヰタ装飾いと華麗！
甘美なること
デコレーションケーキのごとし！
なれどメーデルアイゼンはポリレール！
恐るべき質量と速度を持って
獰猛なる破壊力を行使する！
わ！ やめろ！ ブラススクイドはもうファイト中じゃないんだぞ！
アレをぶっ壊したいって気持ちはわかる。が、僕らのトイファイトの邪魔しようってのは気に入らないな。
同意するよ、カタリ。
狼王マーヤ陛下！ 世界に冠たるゲルマニア帝国のマナーは、その程度のものなのかな？
そなたらへ説明の要を認めません……！
メーデルアイゼン驀進！ 驀進！
殺風速度を持って空中を進む！
邪なる神の歪な雛形を討つために！
旧き支配者たる大いなるものへの
呪わしき交感をやめさせるために！
ブラススクイドに衝突！
メーデルアイゼンともども破砕！
うわぁーっ！
ブラススクイドーっ！
ブラススクイド、というのですね、このトイは。
わ。
箱馬車から降り立つオスカー！
おねえさま！ ぼくは、ふいうちはいけないことだとおもいます！ ましてやそれでトイをこわすなんて！
そうね。あなたの言う通りです、オスカー。
ですが、礼法よりも優先せねばならないこともあります。あのように冒涜的な形態をとるトイを放置するわけにはいかないのです。
けれど……
そなた！ そこな素裸の者！
ブラススクイドとやらを、どこで手に入れたのですか？ お答えなさい。
うるせぇ！
こちとら全裸でいたくて全裸なんじゃねえ！ んな呼び方すんな！
カケト！ 堂々！
露出狂の疑いを晴らす！
ブラススクイドは作ったおっちゃんにもらったんだ！
おれは呑竜カケト！ ヨロイビートルの宣伝トイファイターだ！ あんたも欲しかったら買えばいいだろ！ 確か税込み……
734円。
そうだった、ありがとな、レン。
そういうわけだ！ ぶっ壊したんだから弁償しろよ！ 王さまならお金はいっぱいあるだろ！
え？
……このような呪わしきトイが、大量生産され、市販されていると？ 同様の機能のトイが？
そう言ってんだろ！ 結構売り上げ好調らしいぜ！ ったく、何なのかわかりもしないで壊す、ってなんなんだよ……
そなたらこそ、このトイの危険性を何もわかっていないようですね……
ブラススクイドの
リーサルギミック起動時の形態は
あまりにもかの邪神に似ていた。
トイファイターの夢の力を帯びれば
旧き支配者への祭器となることだろう！
海底にて星辰の並びを待ち続ける
ク・リトル・リトル神召喚の道具に！
……オスカー。どうしましょうか？
神秘とは希少なもの。
強き力を振るう霊妙なる祭器は、
大量生産の原理からは遠い！
そのはずであった。
が、今そうでないことが確認された。
市場にあふれた物全てを回収するのは
あまりにも現実的でない。
どうすれば
かの旧き支配者の復活を避けられよう？
マーヤは答えを見つけられず
呆然とオスカーに問うていた。
え？ ほしいなら、おもちゃやさんにいきましょうよ、おねえさま。ちがうんですか？
ええと、そうですね、色々説明しないとなりませんね……
説明？
要を認めないんじゃなかったの？
ぅ……撤回します。
