ソピアプシュケーは宙を舞う!

絢爛の羽を

陽炎にて蒼穹へとにじませて!

別の浮島へと飛び渡った!

カタリ

やはり、君から仕留めた方が安全かな?

ソピアプシュケーの着地!

それは狙撃の準備に他ならない!


ヴァラープリンスの後方斜め

四時方向から貴公子を狙う!

カタリ

僕は新しもの好きでね。新型はなんでも好きだ。いろいろ便利な機構があるだろう? 
そして便利な新型は、他人に使われると厄介だ。

バネ音! バネ音!

無慈悲に二つのビー玉が放たれる!

げに素早き射撃かな!

だが!

真に褒むべきは速さではない!

研ぎ澄まされたる狙いの鋭さだ!


一射は右を! もう一射は左を!

そしてバネ音! 三射目だ!

三射目は中央!

アルテュール

ふぅん。
君の眼はさほど悪くはなさそうだ、カタリ。

ああ、なんたること!

もはや回避は不可能!


貴公子いかに華麗に走行すとも!

いずれかのビー玉に当たってしまう!

前後に長いアースピーダーの形状!

そして

地上をタイヤで進む乗り物の定め!

地面が水平ならば

水平にしか動けぬのだ!

アルテュール

だが君の美学はどうだろう? 
私見を述べさせてもらうならば、やや遊びを欠いているように思う。

カタリ

美学……? よくわからないな。
『大公家の若様はいつも雅だ。負ける時もね。』

ああ!

何故にかく平然とましますか!?

燦然の貴公子、アルテュールよ!

確かに

これらのビー玉で

即時のファイト不能には至るまい!

なれど一撃当たらば

その隙にもう一撃!

そして水上トイファイトなれば!

水へ落とされれば敗北だ!

カタリ

と、嫌味を言うのが僕の美学かな。君のような相手にはね。

さらなるバネ音!

ヴァラープリンスは撃たれたのち

さらなるビー玉の責めを被るであろう!

アルテュール

わかってもらえないか。
では、実地に教授しよう。

アルテュール

天威を知らそう、ヴァラープリンス。

ヴァラープリンスの跳躍機構が作動!

勇壮なる貴公子は天を征く!

ビー玉どもに空を撃たせて!

カタリ

ッ……へえ。

アルテュール

僕を知っているなら、当然ピュアプリンスのことも知っていたのだろう? 
なら、どうしてヴァラープリンスにも跳躍機構があると思わなかったのかな?

天晴れ!

晴天に映えていと輝かし!


貴公子の燦然たるは常なれば、

及ぶ言葉も非ざる絢爛!

アルテュール

美学の話に戻ろう。僕もモードは好きだ。が、クラシカルにもまた興趣がある。優れたクラシカルは決して古びない。化石が腐らぬようにね。

「車輪にて動く者は地を行く者」

かような定石を

歯牙にもかけぬ雅さよ!


そしてこの典雅は一日のものではない!

ピュアプリンスより引き継がれ

また次世代機にも継承される定め!

アルテュール

ピュアプリンスの在り方こそがクラシカル。それは完成されたもの。
――君が真に警戒すべきは、新型独自の機能などではなかった、ということさ。

ヴァラープリンスは浮島に着地!

休む間もなく再び天へ!


天翔ける貴公子の目指す方!

羽を休めるソピアプシュケーあり!

カタリ

……っ。アルテュール!

ソピアプシュケーは舞い上がる!

空中にてビー玉発射! 加速!


貴公子に征伐せらるその寸前!

すんでのところで身をかわした!

アルテュール

やっと名で呼んでくれたか。
うれしいよ、カタリ。
美学の遊びということを少しはわかってくれたかな?

カケト

こら! お前ら、おれとブラススクイドをほっといてもりあがるなーッ!

タチアナ

きゃーっ! アルテュールくんきゃわいッ! がんばれーッ!

レン

カケトー、その意気だよ!

かや子

初期型が発売されてから、まだ十年もたってないおもちゃでクラシカルも何もあるのかな……? ……カッコいいセリフ回しだけど……

キティ

おもちゃの話も結構。けど、そろそろ脱いで! 何のために私が来てあげたと思ってるの!?

かや子

審判のためじゃない?

アルテュール

そうだね、これはバトルロワイヤルだった。君の相手もしなくてはね。

アルテュール

ではカケト、そしてブラススクイドよ!
僕らに力を見せてくれたまえ! 先ほど助けるに値した者だったと、そう思わせてくれたまえ!

カケト

おう! やってやらぁ!

ブラススクイドは浮島を飛び移る!

主の意気込みを知ってか知らずか

ふらふらとした煮え切らない足取りで!

カケト

力を見せてみろ! ブラススクイド!

ブラススクイドは不規則に滑る。

夢に浮かされてか

詩にたゆたってか。

二本の触腕と

八本の腕のうごめきからは

尋常の闘争心を測ることは難しい。

アルテュール

……不思議な動きだね、君のトイは……

カケト

うるせぇ! ちょっと俺もキモい気がするけどブラススクイドは俺のトイだ!

アルテュール

はは、そうか。 

アルテュール

では君の美学を見せてくれ、カケト!

ヴァラープリンスは跳躍!

ブラススクイドの浮島に躍り込む!

ソピアプシュケーを

追いし速度を保ったまま!

カケト

ぶち当たれ! ブラススクイド!

堂々たる主の命令!

しかれども、なお!

なおブラススクイドは煮え切らぬ!

アルテュール

トイファイターの呼びかけに答えないトイ……? まったく奇妙だ……

ヴァラープリンスは猛進!

ブラススクイドに接触!

すると誰もが思ったその時!

アルテュール

あれ?

青銅の烏賊は気まぐれなり!

不自然な加速をもって猛進をかわした!


迫りくる危機を察知してのことか?

はたまた

超自然の

詩や夢を追ってのことなのか……?

アルテュール

だがもう一度だ!
行け! ヴァラープリンス!

ヴァラープリンスの突進!

天晴れ! 勇壮なり!


ブラススクイドよ!

汝とて、もはや闘争を無視できまい!

尋常のもののふとして敵に相対せよ!

カケト

迎え撃――

カケト

あれ?

ブラススクイドは不自然に急減速!

不意に発生した間合いは最適の距離!

上下にのたうつ触腕の一つ

その先端がヴァラープリンスを叩く!

アルテュール

くっ! やるなカケト!
やる気がなさそうに見えて君も優れたトイなのだな、ブラススクイドよ!

カタリ

……なんだ? 今、何か……?

ソピアプシュケーは狙撃を取りやめた。

カタリは二人から距離を取り

意識外からの攻撃で

漁夫の利を狙っていた。

だが

ブラススクイドの攻撃の瞬間

カタリは奇妙な何かを感じ取った。

届くはずのない彼方から

幽かな呼び声を聞き取ったかのように。

月都ヴォルフストゥルム城

オスカーの居室!


アドルフを別室に寝かせたのち

マーヤとオスカーは憩っていた。

オスカー

あれ? いまだれか、なにかはなしましたか……?

ギュンター

はい? 何のことでしょう、俺には何も聞こえませんでしたが……

マーヤ

あなたにも聞こえたのですね、オスカー。では、今の呼び声は現のものであったということ……!

マーヤは卓上のスケッチブックを開く。

そのページには

新古ゲルマニア様式の

箱馬車が描かれている。

マーヤ

さ、オスカー。地球へ参りましょう。今の呼び声を発したのが何者か確かめるために。
お兄さまが良くなるまでは、我々がゲルマニアを守らねばなりませんから……!

オスカー

はい、おねえさま。

マーヤが箱馬車に乗り込む。

オスカーもマーヤに続く。

オスカー

ギュンターはぎょしゃだいにのってね。

ギュンター

あ、っはい、殿下!

ギュンターは驚愕を忠誠で抑え込み

オスカーの命に従った。

ギュンター

なんで絵の馬車がここに……? 気づいたら部屋にあったってなんだよ! 脈絡なさすぎるだろ! 俺は夢でも見てるのか……!?

トイファイターズ! 20 ~絆の軽重3~

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