自分の気持ちに、疑問がつく。
いつも、こうして悩んでしまう。
――今、わたしは、二つの問題を抱えている。
あいつのことと、部活のこと。
距離がうまく測れなくなった、幼なじみの男の子。
幼なじみというだけで、話題が合うわけでもないし、たまに口げんかにもなってしまう。
うまくいかないなぁ……
自分の気持ちに、疑問がつく。
いつも、こうして悩んでしまう。
――今、わたしは、二つの問題を抱えている。
あいつのことと、部活のこと。
距離がうまく測れなくなった、幼なじみの男の子。
幼なじみというだけで、話題が合うわけでもないし、たまに口げんかにもなってしまう。
気に入らないんだけれど……
天井を見上げながら、ぼんやりと、顔が浮かんでくる。
気に入らない顔を、見ちゃう
子供の頃から、本を読んでいる時の顔が、ずっと気になっていた。
……
開く前と。
……♪
読み終わった後。
ワクワクしている顔と、やり終えたような満足げな顔が、印象的だった。
それは、今も変わらない。
学校では、無表情に見せているけれど。
(……あれでけっこう、気がつくし)
先生から言われたことや、クラスでの役割分担なんかも、学(まなぶ)は断ることなくこなしてしまう。
友達とのつきあいも、決して悪い訳じゃない。
ちょっとわかりにくい、ってところはあるってよく聞くけれど。
テストの成績だって、悪くはないと聞いた。
下から数えた方が早いわたしよりは、ずっと上だ。
目立たず、騒がず、でも……いないわけじゃない。
考えてみると不思議だけれど、学(まなぶ)はそういう男の子だった。
(部活のことも、知ってるんだよね)
朝の会話を想い出して、苦い気分が戻ってくる。
直接、そう言われたわけじゃない。
だけど、おそらくそうなんだと想い、ため息をする。
――学(まなぶ)の言っていた、ぶつかるって話は、あいつとのことじゃない。
(ううん、学(まなぶ)とも……ぶつかっちゃったのか)
二つの問題の内の、もう一つ。
――わたしは今、ちょっと部活で孤立している。
うちの学校は、特に部活に対して熱心な学校というわけじゃない。
もちろん、いい加減ってこともないけれど、陽が暮れるまで練習に明け暮れ、大会で上位入賞を目標にするほどじゃなかった。
ただ、がんばった分だけ記録が伸び、身体を動かすのが好きなわたし。
よりがんばりたいと想って、テレビや雑誌で読んだことを
やりましょう!
と部活で言って、実行したけれど……。
結果として、周りの子達とぶつかってしまった。
(……これがいい、って書いてあったし、そう想ったんだけれど)
目標を大きく持ちたくて、メニューや課題を独自に提案した。
それについてこようとした子達と、反発した人達とのやりとりを、わたしはうまくとれなかった。
それどころか……どっちつかずの意見や、極端な意見をばらまいて、なにを言ってもうまくいかなくて。
最後には、ついてきてくれた人達にも、怒り出してしまって。
(確かに、人それぞれ、なんだけれど)
頭を冷やすと、自分の悪いところも、相手の言いたいこともわかってくる。
でも、謝ることはできなくて。
言いたい言葉が、見つからない。
言いたい想いは、たくさんあるはずなのに。
(でも、やっぱり……)
それからは、周りの部員から少し距離を置いて、独りで練習している。
先輩からも同級生からも、後輩からも。
タイムを計ってくれたり、練習道具を片づけたり、表面上は大きく避けられてはいないんだけれど。
以前みたいに話せないまま、もう、二週間くらいたってしまった。
(謝る……?)
でもそれは『自分の考えが間違っていた』って認めるみたいで、素直に話すことができない。
全部正しい、なんて言う気も、ないんだけれど。
ちょうど良いところが、見えない。
伝えたい言葉が、見つからない。
(いつ、あいつは知ったんだろう。
……誰かから、聞いたのかな)
そんなわたしのことも、学(まなぶ)はちゃんと見ていたみたい。
いったい、誰が話したんだろう。
それとも、わたしの様子や部活の空気を、どこかで見ていたりしたんだろうか。
ぽつりと、複雑な気持ちで呟く。
……そう、見てはいるのよね。
見て、いるんだけれど
あいつが、あんまり本音を出さないタイプなのは知っていた。
自分からはあまり人と関わらないし、口数が少ないのは、子供の頃から変わらない。
ただ、話さないわけじゃないし、笑わないわけでもない。
わたしは、それを知っていると想っていた。
本音を出してくれる一人のなかに、自分も入っているんだと、勝手に信じていた。
でも、今日の言葉は……そうじゃなかったように、わたしには聞こえた。
(あれが本音なら、わたしは、学(まなぶ)の隣にはいないんだ)
嘘がないからこその、ショックなのかもしれない。
そんな自分の性格が、今日の自分勝手な怒りと、部活の今になっているのも、よくわかっているのだけれど。
わたし、は、周りの一人
呟きながら、そのとおりかも、と感じてもしまう。
言われたとおりに、学(まなぶ)の言葉と、ぶつかってしまったのだから。
……変な言い回しをする、あいつも悪い、と想っちゃいはするけれど。
(めんどくさい、自分……)
ベッドの枕に顔を埋めながら、気分は沈む。
疲れた身体はどんよりと重い。
なのに、考える頭は止まらない。
すっと、うつぶせのまま顔を上げて、ぼんやりと呟く。
隣にいてほしいのは、やっぱり、あの人なのかな
学(まなぶ)が、隣にいてほしいと想っている人。
もし、あいつがそういう人を望んでいるなら……想いあたる人物を、わたしは知っていた。
ずっと前に、しかも、あいつの口から直接聞いたこともある。
でも、その人にわたしは、会ったことがない。
(どんな人、なんだろう)
考え込んでいた頭を上げて、ぐっと上半身をベッドから起こす。
伸びをして、少しだけ気分を晴らす。
……!
うん、やっぱり……考えるより、動いた方が気持ちいい。
だから、わたしはその直感のままに身体を動かして、クローゼットと小物入れへ足を動かす。
そうだ。決めた
学(まなぶ)の想い人。
知りながらも、避けていた相手。
行くのなら、今度の日曜日。
でも、あいつに見つからないようにしなきゃ、とも想いながら準備を始める。
友達と出かける時とは違う、わたしと気づかれない服装。
少しばかりの小物もつけて、誰にもばれない姿になるように。
そして、見に行こう。
学(まなぶ)がその人の前で、どんな顔をして、話をしているのかを。
そして、それを見て……。
(わたしは、どうしたいんだろう)
そうは想いながらも、わたしは準備を続けた。
ただ、知りたい――そんな、単純な理由を否定できなくて。