第十三駅 天国と地獄




















発車します。

























大毅

クソっ!


俺はやるせなさに貫通扉を叩く。

大毅

鮎川ァ!!

大毅

アンタは……
後悔はなかったか……?
本当にそれでよかったのか?





柚葉

……。




柚葉が苦しそうに俺に声をかける。


柚葉

ねぇ、大毅……。

大毅

どうした……。
柚葉……。

柚葉

『3つのゆりかご』は
1両目、2両目、5両目だと思うわ。

大毅

え!?

香織

……。

美香

なんでそう思うの?

柚葉

だって、海亀町の時、3両目は明るかったけどその先が暗かった気がしたの

大毅

よく見てたな!

柚葉

なんか……胸騒ぎがしたから……。

美香

ちょっと待って!
1両目と2両目と5両目が蜂を作ったって事よね?
つまり……。

大毅

……そうか。

大毅

1と2と5で8だった……。
そういうことだったのか……。

大毅

もう少し早く気づいていれば……。
鮎川が犠牲にならなくて澄んだかもしれない……。





うこばっくん

その代わりに他の人が生け贄になっていたかもしれませんがね!




予兆もなくデジタルサイネージから



車掌のアナウンスが始まる。



うこばっくん

さて、それでは特別イベント
『天国と地獄』の開催です。

大毅

天国と……

柚葉

地獄……




車掌の掛け声に合わせて



全ての中吊りが同じ内容を示す。




島京《とうきょう》は
運命の分かれ目。

二つのゆりかごが作る蚕は
天国行き。

二つのゆりかごが作る蜂は
地獄行き。





美香

これ……だけ……?

うこばっくん

これまで生き残ってきた
諸君らであれば
これだけで十分なヒントです。

うこばっくん

それでは島京までの旅路を
お楽しみ下さい。






大毅

島京で何かが起こるって事か。

美香

でも、柚葉ちゃんが大切なヒントを
与えてくれたわ。

柚葉

今回も『ゆりかごが作る物』から
推測できるわね。

大毅

二つ足して8を作れるのは
3と5だけだな。
3と5は地獄へ行くってことか。

大毅

残りは1と2と4。

美香

その数字で蚕《かいこ》は
わからないわね……。
どうすればいいのかしら。

まったく、最近の若い方は
あまり漢字を読まないのかしら?

大毅

……といいますと?

蚕は『かいこ』だけでなく
『さん』とも読むのよ。

美香

!!

香織

!!

ユウジ

そうか、3か!
1と2で3だ!




ユウジ

急ごう!2両目に行くには、
地獄行きの3両目を通らなきゃいけない!

美香

わかったわ!











ユウジの言葉を聞き、



2両目へと向かい始める生け贄ら。





大毅

柚葉、俺達も行こう!

柚葉

……う……ん。




俺と柚葉は他の生け贄らの後方から




2両目を目指す。



ユウジ

ニヤリ。

大毅

……ん?































しかし、2両目への移動を急かしたユウジは



悠長に構えている。



大毅

本当に2両目へ向かうべきなのか?


































大毅

天国は正解なのか?






























































天国へ行くのは誰だ。
地獄へ行くのは誰だ。




























大毅

は!?

大毅

だが、これは賭けだ……。
みんなを巻き込めない。

大毅

けど……。柚葉だけは…。










俺は3号車の真ん中で足を止めた。









大毅

柚葉……

柚葉

どうしたの?
行かないの?

大毅

俺は柚葉が何者でも構わない……。

柚葉

……え?

大毅

俺は柚葉をひとりにしない。






柚葉

!!















俺は柚葉の腰を引き寄せ








唇を重ねた。























そして俺は願った。






















この時間が永遠であってくれ……と。





























ユウジ

……何を……やってんだよ……。




柚葉

……大毅、どうして……。

大毅

今まで柚葉を受け入れてこなくてごめんな……

柚葉

……そんな事……なかったよ。

大毅

俺みたいなガサツで野暮で
貧乏な甲斐性なしは
柚羽にふさわしくないと思ってた。

大毅

……けど、後悔したくないから……。

大毅

俺と一緒に来てくれ

大毅

こっちだ、柚葉!

柚葉

うん!







柚葉の手を掴み逆方向へと走り出す俺。




そして元来た4号車へと向かう。



ユウジ

何だと!?

ユウジ

くそ、しまった予想外だ。

ユウジ

させるか!

柚葉

キャッ!





俺の体が4号車へ入った時、



ユウジが柚葉の手を掴んだ。



大毅

離せ!ユウジ!
お前は俺達に構わず
2両目へ行ってくれ!

ユウジ

それはできない。

ユウジ

その女は俺とともに
地獄へ行ってもらう!

大毅

なんだと!?

柚葉

!!!

ユウジ

さあ、その手を離すんだ。

大毅

離すもんか!



俺は柚葉の手を強く引いた。

















その時、



運命の車内アナウンスが流れた。

島京〜〜
島京〜〜


















アナウンスとともに




貫通扉が強制的に閉まる。








そして、全ての連結が解除される。









自由を得た各々のゆりかごは、








ポイント切り替えでそれぞれの道を選ぶ。












1両目、2両目は






空へと向かう左の線路へと移り





上昇をしていく。










3両目と5両目は





地の底へと向かう右の線路へと移り






星の奥底へと向かう。













そして、4両目は……


















大毅

ゆず…は……?











柚葉ァァァァ!












青年1人と少女の左手のみを乗せて






直進する。




























降車拒否







つづく

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