夕方。とある住宅街の家で元気な声が響いた。
夕方。とある住宅街の家で元気な声が響いた。
ただいまー！ 久々の我が家だぜ!!
一見ヤンキーのようにも見えるその女性こそがこの家月影（つきかげ）家の長女、朝乃（あさの）である。
実家から離れたデザインに関する大学に通っている彼女は普段は大学付近で独り暮らしをしているのだが、大学が夏休みになって帰って来たのである。
お姉ちゃん、お帰り。意外と早かったね
そんな彼女を迎えたのは妹の夏乃（なつの）。現在実家の方では彼女と両親の3人暮らしであった。
ただいま。元気そうだな、夏乃
まぁね
何とは無しにそう答えた夏乃だったがそこに朝乃が食いついた。
そんなら丁度良い。夏乃に手伝って欲しい事があったんだよな
そうなの？ あたしに出来ることなら協力するよ
そんな難しくないから大丈夫。ちょっと伯母さんに海の家の手伝いを頼まれてな
伯母さんって今お姉ちゃんの住んでるところの隣にある島で海の家をやってるとかいう優香（ゆうか）伯母さん？
そうそう。色々世話になってるし力になりたいんだけど……残念ながらアタシの彼と親友とその彼しか予定が合わなくて、人手が圧倒的に足りないんだ
親友って昼花（ひるか）さんの事だよね？ ってかお姉ちゃんも昼花さんも彼氏とか居たの!?
ま、まぁな。
で、でもそんなのは良いだろ
いやいや重要だよ？ お義兄さんになるかも知れないんだし
さ、先走り過ぎだって！
そんな事無いよ。元ヤンキーのお姉ちゃんと付き合える人なんて早々居ないだろうし
それは高校の時の話だろ。もう3年前だぞ
でもお姉ちゃん今でもガサツだし料理は出来ないしファッション以外女子力の欠片も無いじゃん
あんまり言うと締めっぞ
だからそういう所だよ。うっかり愛想つかされそうで心配……
それは無い！ 夕弥（ゆうや）はそんな奴じゃ無い。そんなに言うなら見に来れば良いだろ!! 海の家の手伝いに来るんだから
へぇ～夕弥さんって言うんだ？
そんなに信頼してるなら行って見てみようかな
アタシとしては微妙だけど……まぁ人手が増えるに越した事は無いからな。
友達とかも誘って良いぞ。基本宿泊費とかは伯父さんが負担してくれるって言うし
そう？ じゃあ春奈（はるな）、秋実（あきみ）、冬里（ふゆり）でも誘おうかな
いつもの仲良し面子か。まぁでもそれなら助かるよ
で、何時出発して何時帰ってくるの？
アタシが車出して明日にはもう出発して、8月一杯は手伝う約束だ
は!? 明日ぁ!!?
しかも夏休み返上!?
宿題も忘れずに持って行けよ。女に二言は無い。もう夏乃は拒否出来ないからな
えー？ ……まぁお姉ちゃんはそういう人だったよね
あ、うっかり忘れそうになってたけど水着無いと仕事出来ないから忘れるなよ？ 水着で営業する海の家だから。
それに水着は流石に自費だからな
はあああああぁぁぁぁぁ!?
公衆の面前で水着姿を8月一杯晒せって!?
まぁ良いじゃん。夏乃、スタイルは良いんだし。
彼氏とか出来るかもよ？
求めてないんだけど！
拒否ったらどうなるか……わかってんだろ？
信じらんない！
……でももう仕方ないかぁ。わかったよ
こうして夏乃の受難の日々が始まる事になった。
着いたぞー。さっさと降りろ
朝乃の呼び掛けに夏乃とその友人……花透（はなとお）春奈、風彩（ふうさい）秋実、鳥野（ちょうの）冬里が次々と車を降りる。
因みに朝乃の親友である篠崎（しのざき）昼花は彼氏の途坂（みちざか）夜樹の車で、朝乃の彼氏である吉宮（よしみや）夕弥は自分の車で後程合流すると言う。
有難うございます、朝乃さん
まず朝乃に礼を言ったのは冬里。彼女はのんびりしているところもあるが、こういう事はきちんとしている。
その為高校でもクラス委員長に推薦されていた。
……有難うございます
続いたのは無口で大人しいタイプの秋実。クールな彼女の表情は余り変化しない。
有難う朝（あさ）姉ちゃん
他の2人が敬語に対して続いてお礼を言った春奈だけがタメ口である。
明るく元気一杯の彼女だが、礼儀に事欠いてしまう事も多い。
それでも幼い頃からの付き合いで慣れている朝乃は特に咎める事はしないが。
良いって事よ。じゃあ海の家に案内するから遅れるなよ。水着に着替える部屋はそっちで貸してくれるからな
その言葉に頷き、四人は朝乃の案内で『マーメイド』という看板が立てられた海の家に入って行ったのだった。
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