第十駅 銀不成
俺達は脇目もふらず
最後尾を目指す。
次が9両目だ……。
ぐがー!
うっ!
チラッ。
イビキをしながら爆睡する男を
一瞥しつつも走る速度は落とさない。
有力情報をつかむことが
何よりも優先だ。
最後尾だ!
お、おい……
焦りすぎだろ、大毅。
少し遅れてユウジが最後尾に到着する。
……あぁ、悪い。
だが、俺のカンが俺を急がせるんだ……。
そう言いながらも
舐めるように車内の広告に目を通す。
残存する生け贄は、残存する魂!?
すべての空間を繋げ!
並行する流れも混ざり合う。
常人は1。
覇者は5。
幼子は10。
神は10000。
天国と地獄。あとは……?
ん?
ふと、車掌室の前の床が目に映る
その手を差し出せ。
ドアを開ける鍵となり、圧縮が捗る。
見ろ、ユウジ。
床には黒いモヤのようなものが広がり
その脇には剥がれ落ちた
中吊り広告。
そして、闇の中に映る鍵。
そばに来たユウジが
傍らの中吊り広告を見て
鍵に反応する。
あれが、『ドアを開ける鍵』ってやつだな。
『手を差し出せ』か。
おい、何をする気だ?
思うところがあった俺は
闇の中にバケモノの手を投げ込む。
すると、黒いモヤは口を閉じ、
という
何かを潰したような音をさせたかと思うと
薄れて消えていった。
9号車のドア開扉しました。
そういうことか。
差し出した『手』が鍵となる。
みたいだな。
お前、よく鍵に手を出さなかったな……。
カンだよ、カン。
ほれ、役に立ったろ、
バケモノの手。
さあ急いで戻るぞ、ユウジ。
あ、あぁ……。
なんか暑いと思ったら、
ここだけドアが空いてんじゃんかよ!
なんなんだよ!寝れねーよ!
開いたのはあそこか。
いつまでこの電車が
止まるか分からない。
ともかくみんなを呼びに行くぞ。
なぁ、大毅……。
なんだ?
まさか……オマエも見えてるのか?
……?
何が見えているって?
いや、何でもない。
忘れてくれ。
\ピンポンパンポーン/
おまたせしております、
車掌のうこばっくんです。
車掌のアナウンスが始まったが
新しい情報だとしても
脱出してしまえば不要な話だ。
俺達は流れるくだらないアナウンスに
耳もかさず先頭車両へと向かう。
大毅!
9号車のドアが空いたぞ!
その時。
遠くの方で打音があったかと思うと
車体が大きく揺れた。
なんだ?今のは。
死のゆりかごの圧縮を
前倒しで開始しました。
死のゆりかご?
圧縮?
何かが起こっているわ……。
早く脱出しましょう!
大毅……大丈夫?
何がだ?
大毅さん、スゴイ汗です……
え?
指摘されて初めて気がついたが、
俺の顔を滝のように汗が流れる。
走ってきたからか?
いや、これは冷や汗だ……。
俺の本能が何かを警鐘する。
早くしないとドアも
閉まるかもしれない。
行くなら今だ!
本当にそうか?
手負いの者もいる……
本当に今動くべきなのか?
奇数号車は潰れない
行きましょう!
コクッ
いや、ダメだ!
治まるまで身の安全だけ確保だ!
えっ?
わかったわ、大毅!
どんどん近づいてきてる……。
おい、本当に大丈夫なのか!?
隣の車両がグシャグシャになっていくぞ!
俺を信じろ!
ビクッ
次第に折りたたまれていく2号車の外壁。
それに連れてどんどん近づいてくる
3号車の貫通扉。
そして……
ひときわ大きく車体が揺れたかと思うと
轟音の進行は止まった。
治まった。
ホッ……
先頭車両、潰れなくて良かったな……。
さっきお前が、偶数車両は生き残らないってヒントがを教えてくれたろ?
だから、『死のゆりかご』は偶数車両を示していと思ったのさ。
〜〜〜〜ッ。
先程まで圧縮が進行していた2号車は
跡形も無くなった。
そして、いま先頭車両とつながっているのは
かつての3号車。
……偶数車両が……
……という事は、今は5両編成ってこと?
そうすると、さっきの9号車は
最後尾の5両目って事になるわ。
行こう!さっきより出口が近くなってラッキーだ!
大きな危機を乗り越え
気持ちが明るくなる生け贄ら。
だが、こうしている間にも
幼子の命の灯火は小さくなっていく。
……。
湧き上がる裏で
1人冴えない表情のユウジ。
そんなユウジに一匹の生け贄が話しかける。
くすくす……。
お兄さん、もうちょっとうまくやってほしいなぁ……。
なんの話だ?
こんなんじゃ、時間ばかりかかって、帝王になんてなれないよ?
!!
くすくす……。
……黙って見てろ。
おい、ユウジ、先導を頼む!
俺は子供を背負っていく。
……あぁ。
降車拒否
つづく