第九駅 イマワノキワ


































ボンヤリとした視界に映る






うすら曇った空間と






一面の曼珠沙華。













大毅

ここは……










その幻想的な情景は






浮世のものとは思えない。















大毅

……あの世?

いや、
イマワノキワじゃよ。






俺の漏らした言葉に





しわがれつつも落ちついた声が





応答する。










大毅

あ……

ニコニコ

大毅

おじいさん!

またここに来てしまったのう……。
残念、残念。

大毅

『また』?

そうじゃ、『また』じゃ。

じゃが、少しは進んだようじゃの。

大毅

すすんだ?








老人の言葉は




優しくも理解の範疇を超えてる。





前に来た時は、そうさのぅ。

車外に放り出されたようだった。

大毅

あ!























美香

ヒントになりそうな物と言えば……
器川に関したヤツと
最後尾のヤツかしら……。

香織

……でも、今から最後尾に行って
間に合うの?

美香

他に手がかりがないわ……。
やってみるしか無さそうね……。

大毅

最後尾か……。
行ってみる価値はあるな。

大毅

だが、バケモノはどうすりゃいいんだ?







大毅

!!!

香織

!!!
















車外に放り出される




全ての生け贄。





それはまるで地獄絵図。










蘇る記憶はそこで途切れる。


























大毅

そうか……。
あの時、俺達は急ブレーキで
全員車外に放り出されたんだ……。

大毅

そして……

大毅

……死んだ。

思い出したようじゃの。

大毅

今度は……
ひしゃげる車両に挟まれて……。

大毅

『また』死んだ……。

……うむ。

じゃが、お主の『寿命の器』は
まだまだあるはずなのじゃ。
浮世へと戻るが良い。

大毅

『寿命の器』……。

どこへ戻るかは分からんが
もうここへは来ないことを祈る。

大毅

あの……
一つ教えて下さい。

なんじゃ?

大毅

全ての人間は
みんなもこうやって
何度もやり直すのですか?

そんな事ないわい。

たまたまワシがこの電車に乗っていたから、乗客の寿命を操れているだけじゃわい。

この電車に乗っている限りは
イマワノキワからやり直せるかもしれん、ということじゃな。

じゃが、乗客だからといって
他の者がやり直しているわけではない。

大毅

じゃあなんで俺だけ……。

なんでかのう……。
しいて言えば……。

ワシがお主を気に入ったからかの。

大毅

え……なんで……。

まぁいいじゃろ!
細かいことは。

大毅

さぁ、もうすぐイマワノキワが終る。

ここへ戻ってこないのが最も良いが……

もし運悪く、
再びお主の命が尽きるのであれば
同じ死に方をしないようにするのじゃ。

同じ死に方をしてしまっては
『寿命の器』が間違っていた
とするしかないからの。










覚えておきたいことを強く想うのじゃ。
記憶としては残らんが、心の奥底には残る。
















幸運を祈るぞ。





























そして、決して死を受け入れるでないぞ。
























































大毅

うわぁああ!!
なんだぁ!?

ユウジ

落ち着け!
手だけだ、すぐ取れる。

大毅

なに?

大毅

あぁ、手だ……。




俺は顔から引き剥がしたモノを



まじまじと眺める。









ふと、背後を振り返ると



そこには一面が赤く染まった壁。










おそらくバケモノが



さっきの急ブレーキに対応できず



壁に激突して損壊したのだろう。







ユウジ

……?
いつまでそんなもん持ってんだ?

大毅

いや、ちょっとな。

大毅

まあいい、急ごうユウジ。

ユウジ

……?

ユウジ

ちょっと待て、お前それ持っていくのか?

大毅

何かに使えるかもしんねーだろ?
















俺はバケモノの手を持ったまま



ユウジと共に最後尾へと急ぐ。



































自分の行動に少し戸惑いながら。





















降車拒否







つづく

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